電車での偶然の出会いが
世界的ミュージシャンを生んだ
人間関係が良い気分をもたらす効果を理解するために、まず1970年代のグラムロックの世界を覗いてみよう。
新しい10年間が始まろうとしていたこのとき、ブライアン・イーノは平凡な人生に甘んじる道を歩んでいるように見えた。ちょうどウィンチェスター・スクール・オブ・アートを卒業したばかりで、個性的なアート系のロックバンドでドラムを叩いたり、ボロボロのテープレコーダーで風変わりな曲を録音したりと、前衛的な音楽プロジェクトには関わっていた。しかし、それだけだった。それ以外に、人生にとりたてて大きなことは起こっていなかった。イーノはロンドンのロック界で、周りから好かれてはいるが、脇役的な存在として生きていくことになりそうだった。
しかし1971年のある日、地元のミュージシャンとの偶然の出会いがすべてを変えた。イーノが駅で電車に乗り込むと、車内で知り合いのサックス奏者アンディ・マッケイにばったり遭遇した。マッケイは、自分が出演する予定の地元のクラブにイーノを招待した。クラブに到着したとき、会場の雰囲気は最高潮に達していた。観客は興奮してざわめいていた。会場の熱気が、イーノの心をつかんだ。
後にマッケイとのこの偶然の出会いについて、イーノはこう回想している。「もしあのとき、ホームで数メートル離れた場所で電車を待っていたら、あるいは電車に乗り遅れていたり、隣の車両に乗っていたりしたら、僕は今頃、美術教師にでもなっていただろうね」
だが、イーノはマッケイとすれ違うことなく、運命の再会を果たした。そして、活気に満ちたエキサイティングな音楽シーンの真っ只中にいた。
それからというもの、イーノはこの場(シーン)で出会った人たちと音楽について熱く語り合うようになった。気がつくと、それまでの人生で最高の芸術を生み出していた。ほどなくして、マッケイらと共にグラムロックバンド「ロキシー・ミュージック」を結成し、世界の注目を浴びた。イーノはやがて、20世紀屈指のミュージシャン、音楽プロデューサーとまで称されるようになった。