アメリカでベストセラーとなり、多くの絶賛の声を集めた『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』がついに日本に上陸した。著者のブラッド・スタルバーグはマッキンゼー出身で、ウェルビーイング研究の第一人者。この本が指摘するのは、人生を消耗させる「思考の癖」だ。この記事では、本書の内容をベースに感情を抑えて冷静に対応するためのコツ」を紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「仕返しせずにはいられない人」の残念な思考回路Photo: Adobe Stock

「仕返しせずにはいられない人」の残念な思考回路

「なぜあんなひどいことを言われたのに、何も言い返せなかったんだろう……」
「許せない。仕返ししなければ気が済まない」

 こんな思いにとらわれ、心が落ち着かなくなることはないだろうか?

 仕返しをしたいという衝動に駆られる人は、人生の多くの時間を「反応的な行動」で過ごしている傾向がある。

 本書の著者ブラッド・スタルバーグは、私たちの行動を「受動的な反応」「自発的な対応」の2種類に分け、その違いを明確に区別している。

反応とは、よく考えもせずについ早まって出てしまう行動だ。反応すると、型どおりの行動に出やすい。他方で、自発的な対応は計算したうえで意図的に行動することだ。

(P.331)

 仕返しを考えるとき、人は無意識のうちに「反応的な思考」に陥っている。

 たとえば、誰かに嫌なことを言われると、「その言葉が間違っていることを証明しなければならない」「相手に同じ苦しみを味わわせなければ気が済まない」といった考えが自動的に湧いてくる。

 そして、その考えに従ってすぐに行動してしまう。

 こうした行動が、スタルバーグの指摘する「型どおりの行動」だ。「攻撃されたら攻撃し返す」という反応によって自動的に動いてしまっているのだ。

「反応」で、エネルギーや時間を浪費してはいけない

 では、どうすればこの思考回路から抜け出し、「自発的な対応」で生きる時間を増やせるのか。

 まず意識したいのは、「コントロールできないものとコントロールできるものを区別する」ことだ。スタルバーグは次のように述べている。

コントロールできないものとコントロールできるものを区別しよう。コントロールできるものに集中しよう。コントロールできないもののために時間やエネルギーを浪費してはいけない。

(P.267)

 たとえば、他人の言動や評価はコントロールできない。しかし、自分の考え方や行動はコントロールできる。

 感情的になってしまいそうな時、「この怒りに従うことで、私は何を得られるのか?」と問いかけてみよう。たいていの場合、得られるものは一時的なスッキリ感だけで、長期的には新たなトラブルや後悔を生む。

 つまり、「自分がどんな場面で仕返ししたくなるのか」を知ることが、冷静な対応への第一歩となる。

「この人と話すと、ついイライラして反応的になってしまう」と気づいたら、その場面での自分の感情を客観的に観察するクセをつけるのだ。

 自分の怒りをそのまま行動に移すのではなく、一呼吸置くことで、「自発的な対応」へと切り替えることができる。

自発的な対応ができる人は、常に別の選択肢を探している

 さらに、一つのことに執着していると感じたときには、視野を広げることが有効だ。スタルバーグはこう述べている。

一つのことに執着していると感じたら──そのことばかり考えている時や、身体が緊張している時も──視野を広げて、目的やターゲットだけでなく、周囲で起きていることにも目を向けるとどう見えるか? と自問してみてほしい。

(P.230)

「仕返ししなければ」といった思いにとらわれると、それ以外の選択肢が見えなくなってしまう。しかし、視野を広げてみると、実は仕返し以外にも選択肢があることに気づくだろう。

 たとえば、「この人とは距離を取る」「この出来事から何を学べるか考える」「そもそも相手の言葉を気にする必要があるのか再考する」といった方法がある。視野を広げることで、より建設的で、自分のエネルギーを有意義に使える選択肢が見えてくる。

 仕返しを考えてしまうのは、人間として自然な感情だろう。しかし、それに振り回されてばかりでは、人生は苦しいものになってしまう。

 大切なのは、「反応的な態度」ではなく「自発的な対応」を選び続けること。怒りや不満が湧いたときこそ、一度立ち止まり、自問してみよう。「この行動は、本当に私の人生を良くするのか?」

 その問いを繰り返すことで、あなたの人生は「反応」から解放され、より自由で充実したものへと変わっていくと本書は訴えている。

※本稿は『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』の内容を一部抜粋・編集したものです。