なぜ大企業では
発達障害の雇用がうまくいかないのか
阿渡氏は大企業の障害者雇用がうまくいかない理由に「手厚すぎるセーフティネット」を挙げる。日揮グループでは福利厚生が手厚く、休職しても長い場合だと3年間は給与が出る。採用側にとってみれば、能力があっても、休職リスクの兆候があれば、精神・発達障害の人を採用しにくくなる。前回述べたように、一年間採用活動しても一人も採用できなかったのはこうした事情もあったのだ。
JPTでは「ノーワーク・ノーペイ」の原則を適用し、このリスク認識を変えた。「例えば結婚手当など、仕事の成果と関係ない手当などは出さないことにした」。会社の仕事は「働く場所を提供すること」と割り切ることで、リスクがあると見なしていた人材も採用できるようになったのだ。
そして、採用を見送っていたような人たちの中には、ITの才能を持った優秀な人材がひしめきあっていた。彼らは特性上、企業が設定する従来の働き方には合わなかっただけで、適切な環境があれば高いパフォーマンスを発揮できることに気づいたと阿渡氏は言う。
日本の障害者雇用制度における法定雇用率という数値目標は大切だが、それだけでは本当の意味での活躍の場は生まれないと阿渡氏は指摘する。雇用率ではなく、特性を持つ人の能力を最大限に活かせる環境づくりに腐心しているという。
「そのためには、まず大企業の既存の福利厚生や働き方の常識を見直す必要がある。JPTは特例子会社として始めたが、最終的には本社に『制度を逆輸入』して、多様な働き方を根付かせるための実験場としての役割も担っていると考えている」
なお、特例子会社の設立や運用に関して、阿渡氏は海外の事例などは特に参考にしていないという。文化や習慣が違うため、よい例があったとしても、日本に適用しにくいからだ。「それより『本来はどうあるべきか』、日本の従来の働き方の常識を一度取り払って捉え直した」
JPTの成長に伴い、社内での位置づけも変化してきている。設立当初は「障害者雇用のための特例子会社」だったが、今では「ITソリューションを提供する部門」として認知されるようになってきた。