「やってみなはれ」に込められた
本当の意味
サントリーイズムの中核に据えている「やってみなはれ」は、人財育成にもつながっていますか。
もちろんそうです。「やってみなはれ」とは、何でもいいからやってみようという安易な挑戦を促すものではなく、成功するまでやり抜けという思いが込められています。すなわち、「やってみなはれ」はそんなに甘い言葉じゃない。サントリーでは何でも好きなことをやらせてもらえると思ってしまったならば、それは大きな間違いです。ましてや、うまくいかなかったらすぐに諦めるなんてことは論外でしょう。夢はどんどん追いかけてほしいですが、そこには成功するまでやり抜く覚悟が求められる。そのための支援ならば惜しまない。それがサントリーの「やってみなはれ」であり、だからこそ人が育つのです。
その真意を理解してもらうには、経営者自身が最後までやり抜く姿を見せる必要があるでしょう。45年間赤字だったビール事業を成功するまでやり抜いたことは、創業家自身が導いた「やってみなはれ」だったかもしれません。創業者の鳥井信治郎が一度は諦めたビール事業でしたが、2代目の佐治敬三が1963年に再参入し、長きにわたる赤字に耐えながら、46年目の2008年に黒字化を果たしました。困難と挫折を乗り越え、「へこたれず、あきらめず、しつこく」成功するまでやり抜く。その過程は、まさに「やってみなはれ」そのもの。人も会社も、やり抜けば必ず成長するのです。
2015年には全社員を対象とした表彰制度「有言実行やってみなはれ大賞」がスタートしています。これはどんな効果を生み出しているのでしょう。
サントリーグループ全社員を対象の表彰制度「有言実行やってみなはれ大賞」は、みずから旗を掲げ、従来のやり方に囚われない新たな発想に基づくチャレンジングな活動によって、サントリーの創業精神「やってみなはれ」を実践したチームを表彰するものです。年1回開催されており、2023年度は世界中から482チームがエントリーし、最終選考には国内外から約100人が参加するという過去最大規模になりました。サントリー食品インターナショナルから参加したチームが大賞を受賞し、私からトロフィーと賞金目録を贈呈しました。
この「やってみなはれ大賞」は、社員が日本人だけならば必要なかったかもしれませんが、グローバル化というルビコン川を渡ってしまったいま、もう後戻りはできないからこそ、世界各国で働く社員一人ひとりが「やってみなはれ」をはじめとするサントリーイズムを共有する仕組みが必要となりました。世界中のチームがアイデアを競う中で、「こんな面白い人がいるんだ」という発見だけでなく、「もっとチャレンジしたい」とモチベーションが高まり、さらなるアイデアが湧いてくる。こうした好循環から大化けしたアイデアが生まれてくることを期待しています。
会社が大きくなるとどうしても安定志向になり、活力が失われがちになります。そうした大企業病に陥らないためにも、これからも「やってみなはれ」でみんなが成長できる会社にしたいですね。