『花子とアン』以来の脚本×演出タッグが仕掛けた
今田美桜が魅せる「老け顔特殊メイク」

 第1回の冒頭で、主人公の未来の姿を描き、そこから子役時代にさかのぼるやり方は、朝ドラこと連続テレビ小説でおなじみのパターンのひとつ。脚本の中園ミホ、チーフ演出の柳川強は『花子とアン』(2014年度前期)でもタッグを組んでいて、このときも冒頭、主人公(吉高由里子)が老けメイクで登場していた。

 特殊メイクによって、チャーミングな中年女性のぶに扮した今田美桜は、先述の会見で「嵩とのぶの可愛らしさとかが出ているんじゃないかなと思います。好きなシーンです」と語り、北村匠海は「早いうちに撮影したシーンだったので、嵩とのぶがどういう道筋を通って、このシーンに至ったか、想像するしかなかった」と演技の難しさを振り返った。50代では背筋や手指の状態はどのようか考えて臨んだとか。

『花子とアン』も『あんぱん』も主人公の老けメイクにしっかり取り組んだわけだが、朝ドラではいつも主人公が晩年まで演じ、老けた様子を再現するかというと、そうではない。今回、前者を選択した理由を、CPの囲み取材で筆者は尋ねた。

「このドラマでは『アンパンマン』を生み出すまでの道筋をしっかり描くということを最初に提示したかった。そこで冒頭はリアリティのある表現を選択しました」とのこと。

 長い年月を経て、50代になっても、元気で仲の良いいいご夫婦が、朝を迎えるのだなと思うと安心する。

「おなかすいた さっ朝ご飯 食べよう」

のぶの「食べよう」のあとに「はい」と言ってついていく嵩。『アンパンマン』を生み出した偉大なクリエーターは嵩(のモデルのやなせたかし)だけれど、どうやら彼はのぶに引っ張られてここまで来たようであることが一瞬でわかるシーンだった。