イーロン・マスクによるツイッター買収劇とその後の混乱を描いた『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ベン・メズリック著、井口耕二訳)。著者は大ヒット映画『ソーシャル・ネットワーク』原作者、ベン・メズリック。本書はメズリック氏による関係者への徹底的な取材をもと、マスクの知られざる顔に迫る衝撃ノンフィクション小説だ。「生々しくて面白い」「想像以上にエグい」「面白くて一気に読んだ」など絶賛の感想が相次いでいる本書。今回は特別に、本文を一部抜粋、再編集してお届けする。
ツイッター社社員のマーク・ラムゼイは新婚旅行のまっただ中に、職場を揺るがす一報を受け取った。イーロン・マスクによるツイッター買収提案――それはツイッター社内外に衝撃を与え、本人の人生にも意外な余波をもたらしていく。

イーロン・マスクによるツイッター買収報道、そしてテスラ株価急落…ツイッター社内に走った緊張と不安の日々【話題の1冊を紹介】Photo: daily_creativity/Adobe Stock

新婚気分をかき消した速報

新婚の2週間、仕事を忘れてただ楽しむことができなかったのは、2ヵ月近く前、報道各社をいなずまのように貫いた例のニュースが同時にツイッターをも貫いたからというのもある。

そのとき、マークは、いまと同じところに座っていた。突然に事務所が騒がしくなったのをよく覚えている。携帯電話が通知音を次々と吐き出すし、さらには机から落ちるのではないかと思うほど振動する。机の電話も鳴りだした。これが一番驚いたことかもしれない。机の電話にかけてくる人間がいまだにいるとは思っていなかったからだ。

コンピューターも通知を次から次へと吐き、仕事用・私用を問わず、あちこちのメールサーバーからメッセージが洪水のように押し寄せていると知らせてきた。

あのニュースを知ったのは、自分が最後だったんじゃないかと思ってしまう。ツイッター、スラック、メッセージアプリを開いてみると、なにが起きたのか、すぐにわかった。

マスクの提案に世界が騒然

ツイッターを株式非公開にするというイーロン・マスクの提案に、みんな、びっくり仰天したのだ。

マークも、価格を見た瞬間、常軌を逸していると思った。

いまの株価の40%増し、総額440億ドル近くというのだから。

これはまた、ツイッター取締役会に拒否はまずできないと思われる数字でもある。

取締役会は当初「ポイズンピル」で買収に対抗しようと、割安な価格で株式を既存株主に提供することを提案したが、すぐに撤回している。

株主を喜ばせるのが取締役会の仕事であり、これほどの高価格を拒否するのは職務放棄にほかならない。いくらやりたくてもできないわけだ。

ほどなく、取締役会はマスクの提案を受諾することになったとパラグからツイープスに発表があった。

ツイッター社内に走る緊張と不安

社内に驚きと恐れが広がる。

3年前、ヒューストンのイベントにバーチャルゲストとして登場し、チアリーダー役を務めたときは、みな、マスクを大歓迎したが、今回は、みな、厳戒態勢だ。

なにをやらかすかわからないビリオネアが会社の手綱を握るって?

まさかという思いもある。やることならテスラとスペースXで十分にあるだろう。

本気でツイッターにまで手を伸ばすつもりなのか?

ウチはなにかと言えば論議の的になり、あっちにかしいだりこっちにかしいだりするソーシャルメディアだぞ?

周囲の祝福と現実のギャップ

一方、社外の友だちからは、お祝いのメッセージやメールが次から次へと届く。

世界一の金持ちによるツイッター買収はマークにとっても大当たりであり、ほどなく退職して、今回、給料1ヵ月分をつぎ込んだ新婚旅行で訪れたようなビーチで悠々自適の生活を送れるようになると、どういう理屈なのかわからないが、みな、考えているらしい。

母親も、シャーロット近くの不動産を2軒も紹介してきた。どちらも、新婚カップルふたりはもちろん、家族が5人いても十分すぎるくらいの家だ。ベッドルームのひとつは自分用なのだろう。

マークが20代のとき父親が亡くなり、母はその後のつらい時期をマークに寄りかかるようにすごしてきている。

母は母なりにマークのことを思ってくれていて、マスクがツイッターを買収すれば、マイヤーズ・パークに立つ6ベッドルームの物件が買えるようになると思ったのだろう。