高級米は輸出するといった取り組みも進んでいるが、季節労働者を中心に外国人労働者を雇用したりしながら、棚田に代表される優良小規模農地も活用するといった取り組みもあり得るだろう。日本人が好きなおいしい米が世界で知られ、消費されるようになれば、日本の農業も潤すはずだ。

 いずれにせよ、それが嫌で、「輸入関税700%」などといわれ、標的にされやすい関税率は、計画的に解消した方がいい。

 現在の米輸入制限制度は、先述の通り、ウルグアイ・ラウンドにおいて、工業製品などで日本が不利な要求をのんだ代償に認められたもので、日本産業没落の原因の一つである。

 かつて沖縄返還交渉では「糸(繊維)を売って縄(沖縄)を買う」といわれ、沖縄を返してもらうために繊維産業を米国に売ったとやゆされた。ウルグアイ・ラウンドでは、「自動車産業などを売って米を買う」、つまり、日本人は国際価格の数倍から10倍の米を食べ続けるために、大事な収入源である自動車産業などを犠牲にした。

 ウルグアイ・ラウンドの大詰めだった当時、パリで私は経済産業省の官僚として、日本と同じく政治的に農業を守らなければならないフランスの官僚と知恵を絞って、互いの農業に不利な協定が成立することを遅らせるために、どちらかが先に抜け駆けして妥協しないような交渉をしていた。

 余談だが、このころ、在仏米国大使館はフランスの動きを封じようとして、フランスの高官に女性スパイを近づけて、文字通り、金と女性で籠絡(ろうらく)しようとして通報され(フランスの官僚はそういう誘いを受けたときは公安に通報する義務がある)、国外追放されたという事件もあった。

 先進国においては、農業は食料の安定確保のみならず、食文化の維持、地方振興、景観保全など、多くの観点で合理的な範囲の保護が必要だし、国産食品愛好の気持ちも貴重だ。しかし、国際常識から極端に離れた価格になってしまったり、かえって安定的な食料供給の妨げになってしまったりしては本末転倒というべきであろう。

(評論家 八幡和郎)