戦争パートで嵩が出会う八木信之介(妻夫木聡)
「凄まじいお芝居で、まるで映画のようだった」

――ここから戦争の時代を描いていくことになりますが、「今回はいつもの朝ドラよりしっかり描く」と中園ミホさんも語っています。改めて、これから描かれる戦争パートについてお話しください。

 今年2025年は放送100年であると同時に、戦後80年でもあって。中園さんもインタビューでお話されていましたが、僕にとっても後者のほうが大事に考えています。

 2025年に朝ドラを作るにあたり、何を題材にすべきかと思ったとき、実際、戦地に5年間行かれていたやなせたかしさんがふさわしいのではないかと思いました。やなせさんには『ぼくは戦争は大きらい』という著書があり、戦争に対して明確な表明をしているんです。

 中園ミホさんに脚本をお願いすることに決めて、題材に関してブレストをしたとき、偶然にも中園さんも同じくやなせさんを題材にしたいと思っていました。

 いま、世の中がおかしくなってきているけれど、やなせさんがいま生きていらっしゃって、日本、あるいは世界の状況を見たら何て言うだろうとお話しながら、戦争を実体験したやなせさんの肌感覚をドラマで描こうと決めました。

『アンパンマン』は、やなせさんが戦地で一番辛かった空腹体験から生まれたことも理由の一つとしてあります。だから、戦争を描かないと、『アンパンマン』が生まれた背景を描いたことにはならない。そこで今回、戦争パートがいつもの朝ドラ以上に長くなりました。

 戦争パートでは、嵩たちの空腹経験を描きますし、第1回の冒頭で語られた『逆転しない正義』とは何かにもつながっていきます。『逆転しない正義』の究極の象徴がアンパンマンです。

 また、嵩が戦場で戦争の悲惨さを実感する一方で、のぶも高知でもどかしい日々を送っている。それぞれにとっての正義が逆転する瞬間や、逆転しない正義とは何か、自問自答していくところは『あんぱん』をやるにあたって絶対に必要です。

 戦争パートで嵩が出会う八木信之介役の妻夫木聡さんが凄まじいお芝居をしてくださっていて、これは朝ドラでも『あんぱん』でもない、映画じゃないかというくらいすごいことになっています。

 戦争にちゃんと向き合ってよかったと思っています。とにかく早く皆さんに見ていただきたいです。