「海外での評価」に手応えあり
普遍的な物語を作るこだわりが通じたか
どんな意見であれ、毎日の視聴者の皆さんからの反響が、毎日スタジオに向かう、あるいは撮影後のポスプロ(ポストプロダクション=仕上げ作業)に向かう我々、全キャスト、全スタッフの背中を押してくれています。
撮影は非常に順調です。毎日の収録終了時間は平均21時くらいで、健全な現場です。
これは余談ではありますが。かねて海外放送も行われていた朝ドラですが、今回『あんぱん』で朝ドラ史上初の海外直後配信(日本で放送した直後に海外でも視聴できるように配信する仕組み)をしました。現時点では台湾で、近々にアメリカの一部でも海外直後配信されます。
また、最近、イギリスの「K7」というメディアコンサル会社で、毎月世界中のドラマから10本、注目のドラマがピックアップされるのですが、4月はアジア発のドラマで唯一、『あんぱん』が選ばれました。NHKドラマが選出されるのも初めてです。
海外でも評価されるということは、普遍的な物語が届いたのかなと思いますし、15分、週5日という特殊なフォーマットであっても内容が普遍的でありさえすれば、海外に届くチャンスがあるのだと感じています。

――第6週では蘭子と豪、ふたりの純愛が印象的でした。でも戦争がふたりを引き裂いていきます。
蘭子との別れのシーンは、試写のとき、作り手たちが涙したほどでした。『あんぱん』で戦争は大きなテーマになっていて、戦争について従来の朝ドラよりも時間をかけて書きますが、戦争自体を描くのみならず、そこに至るまでの、二度と戻ってこない“今”という時間をどう生きるかは、現代にも続くテーマだなと思っています。
僕自身ずっとそういうものを描きたくて。そのひとつが、第29回の蘭子と豪のシーンだと思っていました。
細田佳央太さんと河合優実さんの芝居には、この2人だからできた距離感があって、2人の佇まい、表情、しぐさも一つひとつが、その瞬間しかない時間を生きていることが伝わってきました。1億2000万人の視聴者の方々に見ていただきたいシーンになったと強い手応えを感じました。
豪にはモデルがいません。釜次を石屋の職人に設定したとき、弟子がいるだろうということで、考えたオリジナルキャラクターです。戦前の職人ですから、寡黙だけど男気があって、朝田家の傍らからいつも見守っていてくれるキャラクターを置くことにしました。
やがて戦争が近づいてきたとき、あの時代、若い男が次々に兵士として出征していくだろうから、豪がまず出征するという話を考えました。
豪と蘭子は別れのとき、『絶対に戻って来る』と約束を交わしましたが、戻って来ない。だから蘭子は『絶対』という言葉を信用できなくなります。『絶対』なんてないんです。大切な誰かを失ったときの感情を大事に描きました。
