
櫻井武 著
睡眠時、オレキシンをつくる神経細胞はほとんど働かず、オレキシンは分泌されない。つまり、オレキシン拮抗薬はこの本来あるべき睡眠時の状態をつくる。睡眠と覚醒のメカニズムにのっとったこの薬は、自然な睡眠と大差ない眠りをもたらす。
この薬は使いはじめから効果を実感しやすく、副作用がなければ、依存性もない。
しかし、ごく自然な眠りを後押しする作用であるため、オレキシン拮抗薬を服薬しても、いわゆる睡眠薬を飲んだような「なんだか眠くなってきた……」という作用感はない。だから、ベンゾ系を常用している人は効果がない薬、と感じてしまうこともある。
睡眠薬を常用している方はぜひ、卒業を目指していってもらいたいと思う。
しかし、とくに「ベンゾジアゼピン系」「非ベンゾジアゼピン系」の場合、それが簡単ではないこともある。急にやめると不眠状態が悪化してしまうので、いきなり睡眠薬を使わないようにするのは難しい。医師と相談のうえ、焦らずゆっくり、少しずつ用量を減らしていくといい。
不眠症治療のゴールは
「薬なしで眠れる自分」
そのとき、たとえば、オレキシン受容体拮抗薬と併用して置き換えていきながら、最終的に断薬を目指すという方法もある。オレキシン受容体拮抗薬とベンゾ系の薬は作用機序がまったく異なるので組み合わせて使っても問題はない。
ベンゾ系の睡眠薬の量をただ減らしていくよりも、やめやすいように思う。あくまでも主治医の指示に従って減薬を目指してほしい。
そして同時に、自身の「睡眠薬への期待感」を見直すと卒業しやすくなるのではないかと思う。ベンゾ系独特の「酩酊(めいてい)感」や眠気が訪れる作用感を求めてはいないだろうか?
それらの感覚を求めている限り、ほかの睡眠薬は「効かない」と感じてしまう。「いつの間にか、気づかないうちに寝ていた」というのが本来あるべき睡眠で、強烈な眠気を自覚できるのはやはり、体に備わった眠りとは異なる。
ヒトの体には自然に眠り覚醒する機構が備わっている。そのシステムを無理矢理シャットダウンさせるような眠りは、やはり、本来の睡眠がもたらす役割を果たさないのではないかと思う。
眠れない日々が続くのはつらい。そこから脱するために、治療の一環として睡眠薬が必要であれば、適切に活用すべきだ。しかし、睡眠薬は「薬がなくても眠れる」ようになるための薬だということを忘れないでもらいたい。睡眠薬は決して一生、飲み続けるものではない、ということを理解して、正しくつきあっていこう。
・薬に頼る前にまずは、睡眠衛生の改善を
・睡眠薬はあくまでサポート的位置づけ
・酩酊感・作用感・即効性を求めない
・医師と相談しながら、段階的に減薬して卒業を目指す
・不眠症治療のゴールは「薬なしで眠れる自分」