また、ベンゾ系の睡眠薬は依存性があり、薬を飲むのをやめると、服用する前よりも眠れなくなる「反跳性不眠」を引き起こす。これは、服用する前にぜひ知っておいてほしい重要事項だ。

ベンゾ系の長期常用は
認知症のリスクを高める

 断薬による不眠は、「睡眠薬を飲んでいない」という精神的な不安感からの不眠だけではない。長期の服用が脳内に変化を引き起こして、薬がないと眠れない脳になってしまうのだ。飲めば眠れるようになるとはいえ、飲まないと眠ることができなくなり、一度使いはじめるとなかなか手放せなくなる。

 そのうえ、ベンゾ系は長期で常用すると認知機能に影響を与え、アルツハイマー型認知症のリスクを高めるという指摘もある。繰り返しになるが、「眠れる」という体験が得られたら、薬の量を減らしながら卒業を目指してほしいと思う。

 2010年代に入って新しいタイプの睡眠薬が2つ登場している。その1つが「メラトニン受容体作動型」と呼ばれる睡眠薬だ。

 メラトニンは体内時計に働きかけ、睡眠へと誘うホルモンだ。メラトニン受容体作動型の睡眠薬は、そのメラトニンの作用を真似た物質で、視床下部の視交叉上核にあるメラトニン受容体に作用して、体内時計を整えて脳を睡眠モードへと向かわせる。

 もたらす眠りは自然なもので、ベンゾ系のように脳全体に作用するわけではないため副作用も少ない。体内時計が乱れて、睡眠に問題が起きてしまった人には効果を示す。ただし、体内時計に作用する薬なので即効性がない。

 また、ベンゾ系のように、強い眠気を実感することはない。効果が現れるのは服用してから2週間程度とゆっくりで、そのため、「とにかく早く眠りたい」という切実な患者にとっては「効果がない」と評価されてしまうことが多い。こうした特徴をふまえて服用したほうがよい。

少しずつ用量を減らし
睡眠薬から卒業しよう

 もう1つの新しいタイプの睡眠薬が、「オレキシン受容体拮抗(きっこう)薬」だ。日本では2014年に「スボレキサント(商品名:ベルソムラ)」が、2020年に「レンボレキサント(商品名:デエビゴ)」が、2024年に「ダリドレキサント (商品名:クービビック)」の発売が承認されている。

 不安定な覚醒と睡眠のシーソーを覚醒側にキープする働きをしているのがオレキシンだ。感情が昂ったり空腹になったりすると、脳の視床下部外側野にある神経細胞が働いてオレキシンがつくられる。オレキシンの脳内濃度が増えることで、覚醒が維持される。

 オレキシン拮抗薬は、そのオレキシンの作用を遮断することで眠りへと誘う。不眠症の原因として、ストレスや不安によってオレキシンをつくるニューロンが興奮して、オレキシンの分泌が過剰になっていることが考えられる。その過剰になったオレキシンをブロックするのだ。