それから3年後、徹也君は、「ゆくゆくは建築士を目指して、四国の親戚の家に行くことになりました。たいへんお世話になりました」と申し出た。もうすっかり敬語も身についていた。

書影『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)

「仁科さんところはいつも学生さんが多いね*」先日、新しく赴任した駐在さんにそう言われた。「最近のコンビニ、ほとんど学生のバイト、使ってないよ」

 たしかにそうかもしれない。学生は、やっと一人前になって安心してまかせられると思うころ、卒業していってしまう。そのうえ、試験や実習、帰省などでよく休む。主婦のパートさんより使い勝手が悪いのはたしかだ。知り合いのコンビニオーナーも「学生は使わない」と言う人が多い。

 でも「おせっかいなおばさん」はどうしても初めて「社会」を経験する彼ら彼女らに世話を焼きたくなってしまう*。うまく社会へ飛び立つための第一歩が歩めるように上手に育ててやりたくなってしまう。

 いずれ若者たちは巣立っていく*。私たちはいつもそれを応援している。彼ら彼女らの仕事に心から感謝し、祝福の気持ちを持って送り出す。

 今も、冷凍便の配達をしてくれる藤川雅代さんから徹也君の近況報告が入る。「てっちゃん、建築の専門学校に入れたのよ。今は勉強がとても楽しいって」「学校の合間に近くのコンビニにバイトに行き出したんだって。ホントはファミリーハートへ行きたかったんだけど、近くになくて、歩いて5分のセブンに行くことにしたのよ」「てっちゃん、クルマの免許取ったんだって。クルマを買うお金はないから、親戚のおじちゃんのクルマを借りて乗り回しているんだって」

「引きこもりの子」は順調に社会へ走り出している。

夜間学校
40人が入学したが、1日たっぷりと労働したあと、さらに学校へ通うそのつらさに耐え切れず生徒たちは次々辞めていったという。夫によると、卒業時には結局6人しか残らなかったらしい。