年齢的にも難しいのではないかと思ったが、どうしてもとすがられ、週3日のバイトに入ってもらうことにした。

 村田さんは人当たりは良く、お客の好感度は高かったが、なかなか業務が覚えられなかった。

 ひとたびレジに入れば、「ラルク、どう取る?*」「ソフィア、頂戴*」……次々にやってくる問い合わせに戸惑うばかり。

 ちょうどうちの息子が高校生で、その同級生たちが何人かバイトに来てくれていた時代だった。みんな、自分の父親と同年代の村田さんに何度同じことを聞かれても、親切に根気よく教えてくれていた。

 2カ月がすぎ、おおよその業務をようやく身につけたころのことだった。

 代行収納の依頼を受けて、そのやり方がわからなかった村田さんがレジ内で立ち往生した。品出しからかけつけたバイトの女の子が「もういい加減、代行収納くらいわかってくださいよ!」と声を荒らげてしまった。代行収納の用紙は、支払うものや、発行される地域により、形態がさまざまなので、見慣れないうちは何がなんだかわからず、レジに慣れぬ者が混乱するのも無理はないのだが……。

 どの業務もひとりでこなせ、戦力として安心してまかせられるようになり、すっかり頼りにするようになったころ、本業のメーカーのほうも業績が回復し、工場も稼働するようになり、辞めることになった。

 最後の日、村田さんが言った。「コンビニの仕事がこんなに大変だとは思っていませんでした。面接で『レジ経験なしに40代では難しい』と言われたときは、『コンビニバイトくらい』って思っていたんですけど、実際にやってみてよくわかりました」

 2023年現在、覚えるのに苦労するのは支払い方法だ。現金、ギフト券、商品券、クオ・カード、クレジットカード、ポイント支払い、デビットカード、iD、Edy、ワオン、Tマネー……。「○○ペイ」の中だけでも、ファミペイ、ペイペイ、楽天ペイ、メルペイ、クイックペイなどがあり、その操作方法も「機械にかざす」「スリットに通す」「スキャン」「暗証番号の入力」と多様な形態がある。そして、やっかいなことにレジ側の操作ボタン*はみな違うのだ。これは年配者だけではなく、若者ですら覚えるのに手こずる。

 会計時、イヤホンをした若い女性客が「カード」とだけ言い、手にしていたカードをいきなり機械に突っ込む。こちらの操作前なので「読み取り不能」だ。