ラチェット効果の原因
ラチェット効果はなぜ起きるのか。真相はまだよく分かっていない。しかし私たちは次のようなメカニズムが働いたのではないかと考えている。
量的緩和の時期が長期化すると、市場金利はゼロに限りなく近づくので、有利子金融資産の魅力がほぼなくなってしまう。となると、いろいろ考えるのは面倒なので、「現金のまま保有しておけばいい(つまりタンス預金)」「普通預金に放り込んでおけばいい」といった“安きに流れる”人が出てくる。量的緩和が長引くにつれてこういう人が増えていく。そして、量的緩和が非常に長く続くと、大多数の人が現金と流動性預金しか持たないという状況になる。
いったんそうなってしまった後で、量的緩和が終わり、利上げ局面を迎えたとしよう。今度は金利が多少上がっているので、本来であれば現金・流動性預金から有利子の金融資産へと資金をシフトさせるべきだ。
しかし長い間、有利子金融資産に接してこなかったため、どの商品にどんな特徴があり、どんなリスクがあるのか分からず、まるで浦島太郎のような状態に陥っている。要は、金融商品の知識を地道にアップデートしてこなかったので、金融リテラシーが低いのだ。腰を据えて金融商品の勉強をして知識をアップデートすればよいことは分かってはいるが、そこに割く時間と労力が惜しい。
金融商品の勉強に割く時間と労力は、経済学でいう「固定コスト(Fixed cost)」に相当する。人々は固定コストを払いたくないので、とりあえず今までどおりの現金・流動性預金の保有で十分だと考える。このようにして、長く続いた量的緩和の直後の利上げでは、利上げにもかかわらずマネーの保有量が落ちないという現象が生じる。
私たちは、日本や米国で起きた珍現象はこの仮説で説明できるのではないかと考えている。しかし、これはあくまで仮説で、さらなる検証作業が必要だ。