平衡感覚に不安があっても
自転車には乗れる不思議
わたしは、平衡感覚に多少の狂いが生じている、と思っている。あるいは、体幹が弱まっているのか。
まっすぐ歩けず、片足立ちになるとすぐバランスを崩すのである。蹲踞(そんきょ)の姿勢や、膝の屈伸や膝回しをやると、傾くのである(単純に筋力不足という気もするが)。
そのくせ、まだ自転車には乗れるというのが不思議でしょうがない。
自転車は、また、べつの感覚なのだろうか(そんなわけはない)。
ただ細かい運転は、以前に比べると正確さがなくなっている。
細い道や自分で決めたコース、を外れがちで、自信がないのである。ちょっとしたことで倒れやすく、それを足で踏ん張って防ぐこともできない。
足の筋肉がなくなっているのだ。
以前、テレビで見たのだが、土手の上を90歳のおばあさん2人が自転車で全力疾走している映像を見て、驚嘆したことがある。すごいバアサンたちだった。
しかし、なんの参考にも、励みにもならない。
わたしにはなんの積み重ねもないのである。できなくてあたりまえだ。
このまま自然衰弱していくしかないか。
あれは何年前になるか、近所でよく見かけていた、機械人形みたいに自転車をゆっくり漕いでたシワシワの小さなおじいさんがいた。

勢古浩爾 著
ちょくちょく行き会わせ、そのたびに、おお、がんばっているな、と思ってみていたのだ。いつの頃からか、見なくなってしまった。
わたしはまだそのおじいさんほど、よぼよぼはしていない。
77歳という歳はふだんは意識はしていないが、それでも77歳だ。
もう誕生日祝いは断っている。
77歳といえば、むしろ命日のほうが近いからだ。平均寿命などどうってことはないが、一応世間に合わせるなら、あと数年である。
嘘みたいだが、行けるところまで、行くしかない。自転車は、乗れるときまで、乗ろうと思う。