日本の睡眠時間は年々短くなってきていることがわかっていますが、コロナ禍によって、その睡眠時間短縮の幅が低減、もしくは少し睡眠時間が延びています。こういった経年変化や、パンデミックの影響を受けるという点からも、睡眠時間が社会的な因子に影響を受けることがわかります。

働く人々の睡眠時間を
決めている「社会的因子」

 たとえば転勤で通勤時間が変わると、睡眠時間が変わるというのも、社会的な影響ですよね。転勤でなくとも、交通網の変化で通勤時間が変化すると、睡眠時間も変化します。長時間労働による勤務間インターバルの短縮も睡眠時間に影響します。むしろ働く人にとっての睡眠時間は、ほとんど社会的な因子によって決定されています。

 さて、OECD全体平均は505分、8時間25分です。

 そして「日本の???」とした最下段の353分、5時間53分ですが、これは2018年に私の過重労働面談を受けてくださった日本の会社員1000人の平日の平均睡眠時間の平均値です。

 列国はもちろん、日本の平均も大きく下回っていますが、時間にして6時間弱という睡眠時間は、皆様にとって「異常に短い」というより、「意外に長い」という印象ではないでしょうか。最低6時間眠れば充分だと思っていました、という声をよく耳にしますので、おそらくメディアにそういう情報源があるのだと思います。

 残念ながら、この「6時間」に意味はありません。エビデンスとは、統計処理という特別な計算をして、その事象が偶然ではなく真理である可能性が高いことを証明するものです。たとえば先行研究によって、7時間半から8時間の睡眠時間が最も健康リスクが低いということがわかっています。

 この疫学的なエビデンスを個人に当てはめると、7時間半から8時間の睡眠時間で最も健康リスクが低い個人の人数が、社会の中で最も多く、それよりも短い睡眠時間で最も健康リスクが少なくなる個人も、それよりも長い睡眠時間で最も健康リスクが少なくなる個人も存在しますが、どちらの人数も7時間半から8時間の基準範囲から離れるほどに少なくなっていくという意味です。