「任せたいけど、任せられない」
その理由とは?

 ここまでは日本の社会的背景によってプレーイングマネジャーが生まれていることについて触れてきました。一方で、部下の課題によって上司がプレーイングマネジャーにならざるを得ないという場合もあります。

 例えば、ある調査データでの「あなたの部下に対して、『仕事を任せられない/任せるのが不安だ』と感じるのはどのような時ですか?」という質問では、次のような回答が挙げられています。

 たしかに、任せられるほど部下が十分に育っていなかったり、上司が部下の能力に不安を感じていたりする場合、自分自身の手を動かさざるを得ないことはあるでしょう。

 しかし、部下が育つかどうかは仕事を任せるかどうかに依存する、いわば「鶏と卵」の関係です。意識的に任せる範囲を増やしていかない限り、問題は解決しません。

 マネジャーが自らの行動によってプレーイングマネジャーから脱却するために必要なことは2つあります。1つが知識やスキル、もう1つがマインドセットです。

 前者の知識・スキルについては、ほとんどの企業でマネジャー研修などを通じて提供されているはずです。相手のレベルに合わせて任せ方を選ぶ、任せるときには権限と責任をセットにする、などの基礎的なマネジメント知識・スキルがこれに当たります。

 とはいえ、「わかっちゃいるけど、できない」。これがマネジャーの本音であり、今まさに困っていることなのです。

 知識やスキルをいくら学んでも、頭ではわかっていても、実際にはうまくいかない。手戻りが多く、結局自分がやったほうが早いと感じる。マネジメントの現場には常にさまざまな困難や、理想と現実のギャップがつきまといます。

 そのギャップを乗り越えていく大きな壁となっているのは、実はマネジャー自身も気づいていないマインドセットの問題です。

「育成よりも目の前の業務がスムーズにまわることを優先してしまう」「任せなくてはいけないことはわかっちゃいるけど、できない」という人の多くは、プレーヤーから離れることに潜在的な“恐怖”を感じているのです。