そういう人は何よりも「自分自身との関係」を改善しなければ、すべての人間関係はスムーズにはいかなくなる。

 もちろん、人は好き好んで自分を憎んでいるわけではない。自分を憎むには自分を憎む原因が、きちんとある。

 恵まれた人間環境の中で生まれ成長してくれば、自分自身を憎むようにはならない。自分が自分自身を憎んでしまった人には、当然その理由がある。しかし、人が幸せになるためには、それを乗り超えなければならないのである。誰もが理想の環境に生まれてくるのではない。

 理想に近い環境に生まれる人はいるだろう。だが、地獄のような環境に生まれる人もいる。それは外からはわからない。

 外からは理想の環境に生まれ育っているように見えても、地獄の場合もある。理想の人間環境とは、あくまでも心の世界の話である。

 経済的に恵まれているか、両親がそろっているかどうかなど、外側のことはわかる。しかし、両親が子を愛する能力を持っているかどうかは外からはわからない。

自分自身に満足していれば
わざわざ人を傷つけない

 自分が焦っている。その時に「そんなに焦らすな!」と周囲の人に怒る。自分が偉くなりたい。その時に両親に向かって、息子は「そんなにオレに偉くなってくれと期待するな!」とか「どこまでオレが偉くなれば気が済むんだ!」と怒る。

 カレン・ホルナイの言う「the feeling of iinner coercion(内的強迫感)」とは、誰かがその人に強制するのではなく、その人自身がそうしないではいられないということである。

 誰もその人に「偉くなって欲しい」と期待していないのに、自分が偉くならないと気が済まない。それが内的強制である。そうしないではいられないという強迫性が、内的強制である。

 それは自分の心が「『べき』の暴君」の支配にゆだねられている状態である(注1)。

 自分が独立して仕事をするのが怖い。大企業に就職したい。そんな時に「親が」大企業に就職しろと言っていると言う。

(注1)Karen Horney,Our Inner Conflicts,W.W.Norton & Company,1945,p.123.