付加給付によって高額療養費が
23万円もお得になることも!

 付加給付は、太平戦争開戦の翌年、1942(昭和17)年の健康保険法の改正で導入されたものだ。当時は、健康な兵士や軍需産業を支える労働力を確保するために、人口を急増させる政策がとられており、健康保険をはじめとする社会保険も出産を奨励する給付が次々と創設されていた。

 被保険者の家族に医療給付を行う被扶養者制度が法定給付になったのもこの時の改正で、財源に余裕のある組合に子どもの「哺育上の手当」や「哺育手当金」を給付させるために、健康保険法の第69条に第3項が加えられ、付加給付制度がつくられたのだ。

 当初は、政府管掌健康保険(現・協会けんぽ)でも付加給付が行えるようになっていたが、戦後の1948(昭和23)年の改正で、付加給付は組合健保のみに限定されることになった。その後、ドラスティックな見直しが行われた2002(平成14)年の改正時に、付加給付は第69条の3から第53条に移動したものの、若干の文言の修正が行われたのみで、内容はそのままで今に至っている。

 前述のとおり、付加給付は組合健保のみで行われている給付で、それぞれの組合の判断で、法定給付に加えて独自の給付を追加してもよいという制度だ。付加給付をするかどうかは各組合の裁量に任されており、その種類や給付額にも法的な規定はない。

 だが、大手自動車メーカーや電機メーカー、銀行、生命保険会社、マスメディアなどの健保組合では、従業員の福利厚生のために、充実した付加給付を行っているところが多い。

 その付加給付のひとつが、高額療養費への給付の上乗せだ。高額療養費は、1カ月に患者が支払う医療費の自己負担額に上限を設け、医療費が家計に過度な負担を与えないように配慮した制度だ。70歳未満の人の場合、法律で決められた自己負担限度額は、所得に応じて5段階に分類されている。

 例えば、年収500万円の人の自己負担限度額は、【8万100円+(医療費-26万7000円)×1%】だ。1カ月の医療費が100万円だった場合の患者の自己負担額は約9万円。だが、自己負担限度額は所得に応じた傾斜がつけられているので、年収が高くなると上限額も引き上げられる。例えば、年収1200万円の人は【25万2600円+(医療費-84万2000円)×1%】が限度額になるので、医療費が100万円だった場合は約25万円を負担しなければならない(25年7月現在)。

 ところが、ある自動車メーカーの健保組合は、高額療養費の自己負担限度額が、被保険者の収入に関係なく1カ月あたり2万円という付加給付を行っている。医療費が100万円だった場合、年収500万円の人は医療費の負担が法定給付よりも7万円も安くなる。年収1200万円の人は、法定給付よりも23万円も安くなるのだ。