ボノのボーカリストとしての力量に圧倒されるステージ
U2のフロントマンでボーカルを担当するボノは、2022年に自身の回顧録「Surrender: 40 Songs, One Story(降伏:40の楽曲と私たちの物語)」を出版した。その書籍を元に「Stories of Surrender: An Evening of Words, Music and Some Mischief…」というステージパフォーマンスが行われ、さらにそれをApple TV+向けに映画化したドキュメンタリーが、この「Stories of Surrender」である。
このドキュメンタリーは普通の2D映画としても配信されているが、AVP用コンテンツは、空間的なビジュアル演出を加え、新たなイマーシブビデオの可能性を探っている。

1時間26分という上映時間は、Appleのイマーシブビデオとしては最長で見応えも十分だが、それを可能にしたのが、この「2D映画+空間的ビジュアル演出」という手法だった。この手法が成り立ったのは、元の2D映画自体が優れた作品(カンヌ国際映画祭で世界初上映した際には、7分間のスタンディングオベーションが起こった)であり、もっといえばボノ自身が、ボーカリストとしてはもちろん、ストーリーテラーとしても一流であることが大きい。
U2のヒット曲をチェロやハープを使ったソロ曲にアレンジし、それらの歌唱と自身の人生やキャリアを振り返る語りを交差させた構成も巧みで、思わず引き込まれてしまう。ちなみに「Stories of Surrender(降伏の物語)」というタイトルは、社会やその常識に抵抗して生きてきた彼が、U2というバンドや結婚、信仰などを受容していく過程を、自身にとっての「降伏」として捉えたことを象徴して名づけられたものだ。
