イマーシブビデオの松竹梅
一口にイマーシブビデオといっても撮り方や機材による違いがあり、どれくらいの没入感、臨場感があるかも異なる。
理想的には、周囲のどこを見回しても映像が見えている360度ビデオが最も没入感が高い。注意深く作られている360度ビデオは、もはや映像ではなく現実と思えるほどだ。しかし、鑑賞する側のことを考えると、真後ろまで含めて常に周囲を見回す必要があるようなコンテンツは、プレイヤー視点のゲームなどには良くても、映像作品では気が散ったり首が疲れたりするばかりで向いていない。360度映ってしまうため、撮影するのも非常に難易度が高い。
そこで考え出されたのが、前方の上下左右180度までの映像によるイマーシブビデオで、「180度ビデオ」や「VR180」と呼ばれることもある。人間の目は、注視している部分とその周囲のみがクリアに見えていて、それ以外は(意識されないが)ピンボケ状態なので、180度ビデオでも正面や左右を多少見回す程度ならば360度ビデオとほぼ遜色ない映像体験が得られる。
そのため、360度ビデオがイマーシブビデオの「松」だとすれば、180度ビデオは「竹の上」くらいの位置付けとなり、これらをAVPのようなデバイスで観ると、IMAXをはるかに超える生々しい映像になる。
一方で、一般的な画角で撮られた映像を180度の3D空間に浮かべ、元の映像の本来のフレームからはみ出すようなビジュアル要素を加えて没入感を演出した「竹」クラスのイマーシブビデオもある。さらに、今では平面的な映像をAIによって立体化し、周辺をぼかすことでイマーシブ感を出した「梅」クラスのものもある。
現状では、「松」や「竹の上」に相当する質の高い360度のフルイマーシブビデオや180度ビデオの制作には時間も手間もコストもかかるため、適宜、「竹」や「梅」も含めたイマーシブコンテンツが作られている。この分野に力を入れているAppleも例外ではなく、AVP自体は360度ビデオ再生にも対応しているが、現在「Apple Immersive Video」と呼ばれるコンテンツは「180°、3D、8K+空間オーディオ形式」の映像を指すものだ。
たとえば、「F1」のボーナスコンテンツやメタリカのライブ映像は新たに撮り下ろした180度のイマーシブビデオだが、ボノのワンマンステージは既存の収録映像+ビジュアル要素でイマーシブ化したものである。


AVPを持っていないが、F1のボーナスコンテンツを観てみたいという方は、AppleストアでAVPのデモを申し込むと、体験の中にこのイマーシブビデオが含まれている。機会があればぜひ体験していただきたい。
なお、iPhone用のApple TVアプリでは、世界初のハプティック予告編(通常の予告編のシーンに合わせて、デバイスを振動させることで臨場感を出したもの)が公開されている。お近くにAppleストアがない方も、アプリ上で「指で伝わる予告編」を探して再生してみてほしい。
