自動車 “最強産業”の死闘#25Photo by Koyo Yamamoto

日本自動車工業会会長に、2026年1月にトヨタ自動車の佐藤恒治社長が就任する。現自工会会長の片山正則・いすゞ自動車会長は就任から2年で交代となる。実は、佐藤社長の自工会トップ就任を巡って、「佐藤さんで大丈夫か…」との声が自工会加盟社から上がっていた。しかし、ふたを開けてみれば理事会における採決では全会一致で佐藤新会長に同意だった。一体なぜか。特集『自動車 “最強産業”の死闘』の本稿では、自工会会長交代の舞台裏を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)

豊田氏からバトンを受けた片山自工会会長は2年で退任
トヨタ、ホンダ、日産の輪番制の崩壊が決定的に

 日本自動車工業会は、12月18日、片山正則会長(いすゞ自動車会長)の後任に、2026年1月1日よりトヨタ自動車の佐藤恒治社長が就任すると発表した。片山会長は、自工会の副会長に転じる。

 自工会の会長人事は、1期2年でトヨタ、ホンダ、日産自動車の3社のトップが輪番制で務めることが慣例となっていた。しかし、トヨタの豊田章男会長が18~23年に3期の長期政権を築き、さらにその後、いすゞの片山会長にバトンを渡したことで、慣例は崩れた。

 だからこそ、片山会長の後任が誰になるかは、自工会のパワーバランスを図る上でも重要なポイントとして注目されていた。結果的には、再びトヨタにバトンが渡ることになった。

 片山会長は、後任選定の理由について、「私の前任がトヨタの豊田会長だったことと、今回の決定は何の関係ない。これからの2年間、自動車産業がどういう戦いになるのか、その中で自工会としてどういう活動をするのかをずっと議論してきた結果」と説明する。

 トヨタ、ホンダ、日産の輪番が崩れたことは、「先に会長や会長会社が(持ち回りの順番で)決まるわけではなく、課題によって(会長や会長会社が)変わってくるイメージ」(片山会長)と続ける。

 新体制の下で進められる「課題」とは、レアアースや半導体など重要資源・部品の安定確保や、自動車関連税制の抜本改革など七つを指す。片山会長の言葉を額面通りに受け取れば、佐藤新会長の選任の理由は、「解決すべき課題に取り組むのに、トヨタの佐藤社長が自工会のトップに立つのが適切と判断されたから」ということになる。

 実際のところ、トヨタの佐藤社長決定までの過程はどう進んでいたのか。

 ダイヤモンド編集部の取材によれば、実は、自工会加盟社の一部では、「後任は、トヨタの佐藤さんで大丈夫か」と懸念する声が上がっていた。しかし、ふたを開けてみれば理事の「全会一致」での決定だった。一体なぜか。

 次ページでは、トヨタの佐藤社長の自工会会見就任に対して懸念の声が上がっていた理由や、後任会長決定の舞台裏を明らかにする。実は、トヨタの佐藤社長以外にも後任候補はいたものの、その案は「幻」となった。他の候補とは一体誰だったのか。