
学生をはじめとした若者たち(Z世代)はダイバーシティ&インクルージョンの意識が強くなっていると言われている。一方、先行き不透明な社会への不安感を持つ学生も多い。企業・団体はダイバーシティ&インクルージョンを理解したうえで、そうした若年層をどのように受け入れていくべきなのだろう。神戸大学で教壇に立つ津田英二教授が、学生たちのリアルな声を拾い上げ、社会の在り方を考える“キャンパス・インクルージョン”――その連載第22回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
* 連載第1回 「生きづらさを抱える“やさしい若者”に、企業はどう向き合えばよいか」
* 連載第2回 ある社会人学生の“自由な学び”から、私が気づいたいくつかのこと
* 連載第3回 アントレプレナーの誇りと不安――なぜ、彼女はフリーランスになったのか
* 連載第4回 学校や企業内の「橋渡し」役が、これからのダイバーシティ社会を推進する
* 連載第5回 いまとこれから、大学と企業ができる“インクルージョン”は何か?
* 連載第6回 コロナ禍での韓国スタディツアーで、学生と教員の私が気づいたこと
* 連載第7回 孤独と向き合って自分を知った大学生と、これからの社会のありかた
* 連載第8回 ダイバーシティ&インクルージョンに必要な「エンパワメント」と「当事者性」
* 連載第9回 “コミュニケーションと相互理解の壁”を乗り越えて、組織が発展するために
* 連載第10回「あたりまえ」が「あたりまえではない」時代の、学生と大学と企業の姿勢
* 連載第11回「自由時間の充実」が仕事への活力を生み、個人と企業を成長させていく
* 連載第12回 “自律”と“能動”――いま、大学の教育と、企業の人材育成で必要なこと
* 連載第13回 特別支援学校の校長を務めた私が考える、“教え方と働き方”の理想像
* 連載第14回「いかに生きるか」という問いと、思いを語り合える職場がキャリアをつくる
* 連載第15回 なぜ、学生たちは“ボランティア”をするのか?――その背景を知っておくことが大切
* 連載第16回 手軽になった動画ツールや情報は、私たちの学びにどのような影響を与えるか
* 連載第17回 韓国の大手企業が知的障がい者の劇団と取り組んだ研修――その目的とは?
* 連載第18回 大学から力強く巣立っていく外国人留学生が、企業で活躍するために…
* 連載第19回 「思い込み」に気づき、「思い込み」を減らすために、いま必要なこと
* 連載第20回 地域社会と関わる卒業生に、大学や企業はどう応えていけばよいか
* 連載第21回 「仕事のやりがい」とは何か?人との関わり合いが「やりがい」を生む理由
なぜ、いま、職場に「所属感」が求められるのか?
神戸大学に入学して間もない1年生の中には、高校までの環境との違いに戸惑う学生がいる。大学生になると、多くのことを自分で決めなければならなくなる。自分が追究したい問題や関心事は何か、そのためにどの授業を履修するか、部活やサークルやバイトなど、授業以外の時間をどう過ごすか、どこでどんな友達をつくるか、などなど。生活の自由度が高まるのは多くの学生にとって喜びには違いないが、中には、その自由度の大きさゆえに大学に「所属感」を持てず、孤立を感じる学生もいる。
神戸大学は、10年ほど前から、大学一年生向けに「初年次セミナー」という必修授業が開講している。学生生活の基本について学んだり、学友と学び合う関係づくりをしたりする授業である。この授業が設置された背景のひとつにも、大学に「所属感」を持てない学生の存在があったとされる。
私たち教員は、学生たちが自由に使うことのできる空間を準備したり、研究フィールドに誘ったり、いろいろなイベントの情報を提供したりなど、学生たちの「所属感」に働きかけようとする。けれども、学生たちの多くは、「教員に与えられたものには安易に乗っからない」という警戒心も持っている。学生たちは、自由であることの価値も十分に知っているのだ。自分が心地よく「所属感」を持てるコミュニティを、自分の力で見つけようともする。
社会人一年目の新入社員にも、会社に「所属感」を持てない人がいて、会社側も新入社員に「所属感」を持ってもらおうと試行錯誤しているのではないだろうか。「所属感」への関心は、さまざまな領域で高まっている。
例えば、「D&I(ダイバーシティ・アンド・インクルージョン)」の理念が、「DEI(E:エクイティ)」となり、近年では「DEIB(B:ビロンギング)」へと進化している。「ビロンギング」とは、「所属感」のことである。「多様性を重視する(D)」「排除しない(I)」「公正に扱う(E)」というのは組織のあり方についてのコンセプトだが、「所属感(B)」は個々人が組織の中で感じるものである。
「所属感」に注目が集まる背景には、コロナ禍以降、リモートワークの普及やコミュニティの希薄化が進行し、「孤独感」「心理的安全性」への関心が急速に高まったことがある。「自分はここにいていいのだ」「このチームで自分は価値ある存在として認められている」と実感できる「所属感」が求められている背景には、心理的安全性を求め、孤独感を癒やしたいという現代人の願いがあるのだろう。「D&I」や「DEI」が制度や枠組みを整える営みだったのに対し、「B(ビロンギング)」は「制度だけでは救えなかった心の問題」に焦点が当たっているのである。
今回は、私の研究室で博士論文の執筆に挑戦している、社会人学生(長谷川正人さん)の経験を紐解きながら、「所属感」とは何か?を考え、「所属感」を高めるために必要なことについて検討する。長谷川さんは、長年にわたって会社経営で苦労し、その経験を活かして学術界にも貢献したいと考えて大学の門を叩いた65歳の男性である。入学直後からアメリカやヨーロッパの研究会を飛び回り、帰国後の報告会では「世界では所属感をめぐって熱い議論がたたかわされています」と目を輝かせて力説した。







