地域社会と関わる卒業生に、大学や企業はどう応えていけばよいか

学生をはじめとした若者たち(Z世代)はダイバーシティ&インクルージョンの意識が強くなっていると言われている。一方、先行き不透明な社会への不安感を持つ学生も多い。企業・団体はダイバーシティ&インクルージョンを理解したうえで、そうした若年層をどのように受け入れていくべきなのだろう。神戸大学で教壇に立つ津田英二教授が、学生たちのリアルな声を拾い上げ、社会の在り方を考える“キャンパス・インクルージョン”――その連載第20回をお届けする。

* 連載第1回 「生きづらさを抱える“やさしい若者”に、企業はどう向き合えばよいか」
* 連載第2回 ある社会人学生の“自由な学び”から、私が気づいたいくつかのこと
* 連載第3回 アントレプレナーの誇りと不安――なぜ、彼女はフリーランスになったのか
* 連載第4回 学校や企業内の「橋渡し」役が、これからのダイバーシティ社会を推進する
* 連載第5回 いまとこれから、大学と企業ができる“インクルージョン”は何か?
* 連載第6回 コロナ禍での韓国スタディツアーで、学生と教員の私が気づいたこと
* 連載第7回 孤独と向き合って自分を知った大学生と、これからの社会のありかた
* 連載第8回 ダイバーシティ&インクルージョンに必要な「エンパワメント」と「当事者性」
* 連載第9回 “コミュニケーションと相互理解の壁”を乗り越えて、組織が発展するために
* 連載第10回「あたりまえ」が「あたりまえではない」時代の、学生と大学と企業の姿勢
* 連載第11回「自由時間の充実」が仕事への活力を生み、個人と企業を成長させていく
* 連載第12回 “自律”と“能動”――いま、大学の教育と、企業の人材育成で必要なこと
* 連載第13回 特別支援学校の校長を務めた私が考える、“教え方と働き方”の理想像
* 連載第14回「いかに生きるか」という問いと、思いを語り合える職場がキャリアをつくる
* 連載第15回 なぜ、学生たちは“ボランティア”をするのか?――その背景を知っておくことが大切
* 連載第16回 手軽になった動画ツールや情報は、私たちの学びにどのような影響を与えるか
* 連載第17回 韓国の大手企業が知的障がい者の劇団と取り組んだ研修――その目的とは?
* 連載第18回 大学から力強く巣立っていく外国人留学生が、企業で活躍するために…
* 連載第19回 「思い込み」に気づき、「思い込み」を減らすために、いま必要なこと

地域社会の発展のために尽力してきた卒業生

 ある地元の社会福祉法人の理事会で、在学中に関わりのあった卒業生と20数年ぶりに再会した。この社会福祉法人には、私が神戸に来てから25年余りにわたってお世話になっている。芸術活動に取り組む障がい者施設の運営を業務の中心にしている法人である。私は、しばらく前から、理事や監事を引き受けているのだが、卒業生が理事会メンバーに加わったのである。

 この卒業生は羽田野祐司さんといい、私が神戸大学に就職した最初の頃の学生だった。現在は地元の医療生協で執行役員になっているという。私は羽田野さんとの再会にワクワクし、思い出話に花を咲かせた。

 改めて、羽田野さんの経歴を聞いてみた。彼の故郷は愛知県で、入学するまで、特に神戸との関わりはなかったそうだ。中学生の時に、阪神・淡路大震災があり、大惨事をニュースで見ながら、何もできない自分について深く考えたのだという。その経験から、大学受験の際に神戸で学ぶことを決めた。

 羽田野さんは、大学に入学してすぐに、震災復興支援を行っていたボランティアサークルに入った。活動内容は、復興住宅の集会室で「お茶会」を開き、被災者の心をほぐしたり、コミュニティづくりをしたりするというものだった。このボランティアサークルは、「お茶会」の他にも、地域住民や地元の商店街などと協働してお祭りを開催するなど、震災後の地域の復興のためにさまざまな活動をしていた。その活動の中で、羽田野さんは前述の社会福祉法人とも出合い、障がい者施設で行っている作業に加わったりもしたのだという。

 羽田野さんが卒業後に地元の医療生協に就職したことを聞いた当時の私は、羽田野さんらしい進路選択だと思ったのを覚えている。羽田野さんが就職した医療生協は、障がい者施設に通う人たちの健康診断を担当するなど、地域住民の健康を守る活動をしており、地域に欠かせない法人である。羽田野さんは、この医療生協での活動を通して、地域との関係を深めてきた。執行役員にまで出世した羽田野さんが、社会福祉法人の理事となった背景には、羽田野さんが学生だった時代から紡いでいた関係があったのだ。

 卒業後20年余りの間、羽田野さんが地域社会の発展のために尽力してきたことを思い、私は温かい気持ちになった。そして、羽田野さんとの再会は、私自身が取り組んできた仕事と地域との関係について振り返る契機ともなった。

 そこで今回は、地域で活躍する卒業生に注目することで、大学と地域との関係に改めて焦点を当て、「大学が“地域社会の資源”としていかにあるべきか」を考えてみることにする。