NHKなどのメディアも大注目の起業家・白木夏子氏が、「このままでいいのか」を打破する一歩を踏み出す心の鍛え方を伝える。なぜ、普通のビジネスパーソンだった26歳の女性は、『ブラッド・ダイヤモンド』の世界を変えることを決意したのか?これからを生き抜くために今、まさに必要な「自分のために生きる勇気」の連載第一回。
豊かさと愛の象徴が不幸の上にある
『ブラッド・ダイヤモンド』の世界
みなさんは、自分が、隣の人が、恋人が、家族が身に着けているジュエリーがどこから来て、どんな人が採掘しているか考えたことはあるでしょうか?
私は、HASUNAというジュエリーブランドを経営しています。地球から生まれた尊い鉱物を使用して、纏う人、そして作る人の心まで豊かにするジュエリーを作りたいと思い、2009年4月に立ち上げました。HASUNAのジュエリーは、主に発展途上国現地から搾取をするのではなく、正当な賃金を保証する団体・企業やNGOから買付を行うなどして人と社会、自然環境に配慮をしているため、「エシカルジュエリー」と呼ばれています。
実は、私が会社を立ち上げたころ、こうしたビジネスモデルは日本にはありませんでした。ゼロから必死に、手探りでつくってきたのです。パキスタン、ペルー、ルワンダ、ベリーズ……様々な国に足を運び、現地の鉱山で働く人や職人を実際に訪問し、共に美しいジュエリーを創り上げる。普通の大人しい女の子だった私が、今や世界中の鉱山と取引をするようになりました。
さて、みなさんはレオナルド・ディカプリオ主演の『ブラッド・ダイヤモンド」(2006年/ワーナー・ブラザース)という映画をご存知でしょうか。紛争の資金調達のため、闇社会の中で取引されるダイヤモンドを巡るサスペンス映画です。アカデミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされたこの映画をきっかけにジュエリービジネスの裏側を知った、という方も少なくないと聞きます。
そして実際、残念ながら、この映画に描かれているように宝石をとりまく環境は決して良いものではありません。
『ブラッド・ダイヤモンド』というフィクションの中だけでなく、リアルの世界でも、婚約指輪、大切な人へのプレゼント、豊かさの象徴であるジュエリーは、誰かの不幸の上に成り立っていることは多々あります。しかも、どれだけ調べてもそれを知ることはできない。
なぜか。それがこの業界の「常識」だからです。まさにブラックボックスの中でした。
たとえば、南アフリカで採掘されたダイヤモンドは、国外に出るまでに最低でも5つの仲介業者の手にわたると言われています。鉱山労働者が鉱山の運営業者に売る、鉱山の業者がダイヤモンドを買ってくれる地域や村のバイヤーに売る。そのバイヤーがもう少し広い単位に活動しているバイヤーに売り、その人が国単位で活動しているバイヤーにまた売る。その人がダイヤモンドをトレードしている人に売る、と。
この時点で価格はどんどん上乗せされ、どの鉱山のものかあやしくなってくる。そうして国を越え、海を越え、東京の御徒町にある宝石問屋に届くまでには、もはや産地など分からなくなるのです。そこで児童労働が行われていようと、環境破壊汚染が行われていようと、中抜きによって賃金が職人さんにほとんど支払われていなかろうと、それを手に取り、身に着ける人は何も知らないまま。
今や、数百円の野菜ですら産地やつくり手の顔が見える時代です。なぜジュエリーは、すべてがブラックボックスの中にあって誰も疑問に思わないのか?
私たちの生活に豊かさや美しいひとときを提供してくれるジュエリー。結婚するふたりの愛の象徴だったり、親から子へ、子から孫へと継承されてゆく、とりわけこもる想いの強いプロダクトです。その素材は地球に眠っていた、限りある資源。制作過程では驚くほど多くの人が携わり、職人の技で仕上げられてゆく。そんな大切なジュエリーを作る時には、高い倫理観を持って臨むのが当然なのに……。
そうした、業界の「常識」に疑問を持ち、覆したい気持ちで私は起業することにしたのです。