世界で最も刺激的なビジネススクール「The Kaospilots」の日本人初の留学生である大本綾さん。デンマークでの学びをリアルタイムに紹介する大好評の「留学ルポ」最終回は、福祉先進国であるデンマークの「家のデザイン」。高齢者が幸せな最期を迎えられる家とは? 現地の人への取材から見えてきた、家から考える幸福のデザインについて。
最期まで住む幸せな家のデザイン
最近、91歳になる祖母が入院しました。日本に一時帰国をしているときに会いにいったのですが、年を重ねることの厳しい現実に言葉にできない気持ちになりました。
祖母は私が生まれたときからよく面倒をみてくれ、仲がよく大好きな存在です。小学生のときは夏休みに2人でフェリーに乗って四国まで旅をし、大学生のときは、グアムに2人で旅をしました。今でも実家のある京都に帰ると必ず会いにいく大切な存在です。
住み慣れた家で暮らすのがいいと、一人暮らしでなんでもこなしていた祖母ですが、それも最近では難しくなり病院に入院することになりました。本当はできる限り長く暮らした家で過ごしたかったはずです。祖母は自分の家に愛着を持って暮らしていました。
高齢者が長く暮らした家を離れるとき、病院や介護施設などで居心地の良い家のような場所を作ることができるのか。最期まで幸せに暮らせる場所をデザインするには何が必要なのか。デンマーク人の取り組みや考えが気になりました。
デンマークの現在の高齢化率は約17%です。日本の25%より低いものの、2020年ごろまでにはデンマークの全人口550万人の内、20万人もの公務員が定年退職することが予測されています。福祉先進国のデンマークは少子高齢化の中で、どのようにリソースを活用しながら高齢者が幸せに暮らせる場所をデザインしているのか気になりました。
そこで、まずは留学中のビジネスデザインスクール、カオスパイロットを卒業したフィア・ホイスレッドさんに話を聞きました。彼女は2013年から2014年の卒業プロジェクトで高齢者の幸福な暮らしに関する研究と実践に取り組みました。
18歳のときにアルバイトで働いていた高齢者住宅で、高齢者が抱える様々な悩みや問題を目の当たりにしたフィアさん。高齢者が最期まで幸せな生活を送るために、今度はコンサルタントの立場から状況を改善しようと決心します。
「改善」とはいえ、福祉先進国と呼ばれるデンマークは他国とは改善を考えるスタート地点が異なるはず。まずは高齢者の住居の歴史を調べました。デンマークでは1960年代頃から自宅での生活が困難な高齢者向けに「プライイェム」と呼ばれる居住施設が配給されており、そこでは原則的に個室が提供されていました。
現在はプライイェムよりも、さらに適切な広さと設備を備えた高齢者の住まいが必要と判断され、施設ではなく「高齢者住宅」としての住まいとして配給することに方向が定められています。居住スペースの広さと質が改善され、専用トイレ・シャワー室、キッチンも車椅子使用者が楽に利用できる広々としたスペースができました。
フィアさんが感じた改善の余地について詳しく聞くと、それはどうやら住宅の機能そのものではなく、「長く暮らした家にいるような感覚」を高齢者住宅に作ることでした。それでは幸せに暮らすための「家感」はどのようにしてデンマークでは作られているのでしょうか。