「重商主義」ではなぜ、東インド会社がえこひいきされたのか?
重商主義とは、絶対王政期に採られた経済政策だ。初期のものを「重金主義」といい、後期のものを「貿易差額主義」という。
重金主義は、いかにも頭の悪い王様が思いつきそうな政策だ。つまり、鉱山開発や植民地の獲得で、直接金銀を獲りに行くのだ。金山はたぶん、掘っても出ないぞ~。なんで金に希少価値があるのか考えてみろ。それに金山を持つ国を植民地にするって、これも無理だぞ~。だって金山のある国は金持ちだから、絶対強い。というわけで、重金主義は次第に廃れていく。
その後出てきたのが貿易差額主義だが、こちらは見事に定着した。これは国王が、特定の商人団にだけ貿易の特別許可を与え、彼らがガッポリ稼いできたカネを、後からごっそり吸い上げるシステムだ。この王がえこひいきした商人団を特許会社といい、その代表格があの有名な東インド会社だ。
東インド会社! あの中学・高校の歴史年表でひときわ異彩を放っていた謎の言葉、東インド会社。「ここって、何つくっている会社だよ?」と誰もが思った東インド会社。なまじ意味のわかる言葉なので、かえって悩ましかった東インド会社。何となく辛口のカレーっぽい東インド会社。世界史の授業に集中していないバカどもの想像力を刺激する言葉、東インド会社。お前とはこの文脈で出会うのが正しかったのか!
……失礼、ちょっといろいろな思いがあふれてしまいました。というわけで、絶対君主からえこひいきされてきた商人団が東インド会社だ。東インド会社は、1600年にイギリスのエリザベス1世から特許状をもらって設立されたものが最初で、17~19世紀にかけて活躍した。
その後、オランダやフランスなどでもつくられ、貿易上の強い特権で東洋貿易を独占しただけでなく、強大な軍事力を持ち、植民地の経営から同業者とのバッティングまで行った。特権面でも組織力の面でもここまで強い東インド会社と絶対王政が結びつくと、こんなことが可能になる。
「本日より○○の貿易は、東インド会社のみ許可する。他のやつがやったら打ち首!」
打ち首はともかく、だいたいこういうことだ。こんなの安倍首相が言い出したら、たちまち内閣不信任決議、森首相なら革命だ。でも絶対王政では、常に王が正義。だからこそ、こんな荒業もできる。
この貿易差額主義を理論面で支えたのが、イギリスの東インド会社重役で『外国貿易によるイングランドの財宝』を著したトーマス・マンと、フランスでルイ14世の大蔵卿を務めたコルベール。特にフランスでは、彼の名をとって貿易差額主義のことを「コルベール主義」ともいう。
いずれにせよ、この重商主義のおかげで商業は異常なほど発展し、第1回で紹介した、資本主義に必要な要素の一つ「(1)商品経済の発展」は実現した。あとは「(2)資本家と労働者の誕生」だが、これもまた、重商主義の流れの中から生まれてくる。