県による津波浸水予測図(津波ハザードマップ)は、当時の女川町の中心市街地付近の津波予測高を、想定地震ごとに最高で5.3または5.6メートル(平成16年の県第三次地震被害想定調査報告書による)としていた。「町中心市街地付近」というものよりも細かい解像度のものは存在しない。

 しかし銀行は証拠で、津波ハザードマップを「拡大」したとする図を用いて、支店所在地周辺の津波浸水予測高の想定が1~2メートルであったと解析。支店ビルが内閣府の津波避難ビルの要件を満たしていたと主張した。その「拡大図」を銀行は、「県に確認した上で」、従業員に作成させたという。

  控訴審は、家族側が、この津波ハザードマップの「拡大」図について、完全否定する主張をして始まった。

 2014年5月には、「津波予測は、シミュレーションの結果を市長単位で公表したものであり、予測図を拡大したからといって、支店所在地の予測浸水深が判明するものではないことを、銀行側に説明した」と、県危機対策課が公式に認めた文書を提出。科学的根拠に基づいているか吟味されないまま、「拡大」図が重要な論拠とされた1審判決の破棄を求めた。

裁判長「経済合理性」「拡大図」に触れず
「臨機応変」にすり替わった文言

当時25歳の健太さんを亡くした田村孝行さん、弘美さん夫妻
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 控訴審の後半では、専門家や、岩手県大船渡市の津波で被災した企業から協力を得て、企業は責任を持って従業員を守らなければならない企業防災のあり方を繰り返し訴えた。

 一方、銀行側は、改めて屋上を越えるような巨大津波を予見することは困難だったと主張。民法に詳しい専門らの意見書を提出し、予見可能性があって初めて安全配慮義務が発生するため、安全配慮義務の違反はないことを訴えた。

 2月26日に行われた控訴審の結審では、田村弘美さんが意見陳述で、「銀行側の独自の本末転倒な対応は、どのような必要性からなされたのか、最も知りたい」と、走れば1分ほどで高台がありながら、当時屋上に留まった理由の解明を訴えた。

 しかし、控訴審の判決で高橋裁判長は、企業の「経済合理性」という観念や、津波ハザードマップの「拡大」図の問題については、一切触れなかった。