そのうえで、高橋裁判長は、企業の安全配慮義務を認めなかった理由について、

「支店の屋上を避難場所に追加したのは、屋上までの高さが約10メートルであり、5.9メートルという想定されていた津波から避難できる高さを有していた。企業が、臨機応変に安全な場所を選択することができるようにするという観点から、屋上を追加したことには合理性がある」

「屋上に避難した後、堀切山に変更する指示を怠ったことについては、屋上での避難を継続して被災する危険性が、堀切山に変更して移動する途中で被災する危険性を上回っていたとまではいえない」

 などと認定した。

1審判決に続き、高裁でも請求棄却となり、記者会見に臨む原告(2015年4月22日、仙台弁護士会館)
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 1審にあった企業の「経済合理性」という観念が、控訴審では「臨機応変」という文言にすり替わった格好だ。

 しかし、原告弁護団によると、「臨機応変」という表現や「移動する危険性のほうがより大きい」という当時の判断は、控訴審の過程で、銀行側がとくに主張していたわけではないという。高橋裁判長が、結論を書くにあたって、その理由を補強したのだろうということがわかる。

 前出の佐藤弁護士は、こう指摘する。

「控訴審判決の内容としては、判断しなければいけない部分から避けて答えだけを導くという手法は、納得できない。それでも、判決の体をなしていないではないかと言いたいくらいの原判決から比べると、整理はされた感じがします」

 一方、遺族の1人は、こう感想を語った。

「経済合理性という文言はありませんが、モヤモヤした形で書かれていて、(原審の判決と)そんなに変わっていない内容と認識しています。人の命について、津波に対する企業の中での安全が守れない。働いているときに有事に遭ったら、やむを得ないんだ、それでも国を守ることはできるんだと、国がお墨付きを与えることに危険を感じる。雇用される側の安全をどう守ればいいのか、これからも皆さんと一緒に考えていきたい」

 遺族側は銀行側の事前対策には不備があったことを指摘し続けたが、それらについても結局、法的責任は認められなかった。その一方、判決では、「堀切山への避難を指示していれば、被災した行員らの命が救われていた可能性は大きかった。避難場所として屋上が指示され、行員らが被災する至ったことについては、極めて残念な結果と言わざるを得ない」と、事故の回避可能性にも中途半端な形で触れていた。

 要するに、危険な地域に配属されることになったリスクを、従業員が引き受ける判決内容にとどまっている。

 企業の防災は、ただでさえ事業継続性(BCP)がおきかえられて語られがちだ。しかし、判決で「経済合理性」(1審判決)、「臨機応変」(2審判決)という言葉が用いられたことにみるように、司法でも企業防災が、人命保護よりも事業継続性が優先される判断が下されることは、企業の安全管理体制が確立されていかないということになるのではないか。