河合 日本人が外国人に比べて得意とすることは何だと思いますか?

水永 プロフェッショナルの領域で見ると、アメリカ人は表面的なところにいくのと比べて、日本人はディープにしっかりと突き詰めます。

河合 職人的なよさでしょうか?。

水永 職人的に。いまはアメリカにしてやられているわけですが、本来、これは日本人のお家芸だったんですね。細かいところまできっちり詰めた良質な製品をつくる。サービスマニュアルを最後の最後まで詰めて、いろいろなケース分けをして、帰るお客さんが見えなくなるまで頭を下げる。こうしたことは日本人ならではだと思います。

 それはアメリカ、とくにエリートには絶対ないですね。大枠は俺が決めた、あとはうまくやっておけとなります。アメリカのエリートの場合、自分は階級が違うんだと言わんばかりの意識を持っていますが、日本にはそこまでの階級がありません。一応はフラットの社会にいて、社長も社員もそれほど差がないと思います。だからこそ、みんなが一緒になって、ディテールをきっちり詰めてできるのは日本人の特質です。

河合 アメリカではリーダーはビッグピクチャーに集中して、小さなことは気にしなくてもいいとされます。

水永 日本人はディテールばっかりでビッグピクチャーが見えない人が多いと言われますが、ディテールが見えていることは強みでもあるわけです。

河合 とても大事です。ディテールが見えてないで失敗する例はたくさんありますから。

水永 最後の1行で大失敗するわけですからね。「God is in the detail.」です。

日本人だからこその強みに自信を持つ

水永 それから、シャイなのでうまくいかないことはありますが、本来、チームワークは日本人のほうがうまいと思うんですね。思いやる気持ちがすごいですから。ビジネススクールに来ているようなエリートたちの間では、非常に表面的な付き合いが多いと感じました。互いに喧嘩しないで「Hello. How are you?」から始まり、仲良くしているようですが、ディープには付き合いたくないというのがたくさんありました。日本人はもう少し深く入っていきますよね。

河合 それはアメリカとヨーロッパの大きな違いかもしれません。

水永 ヨーロッパのほうが日本に近いですね、そこは。

河合 ヨーロッパのビジネススクールの友人は、いまでも家族のような付き合いが続いています。アメリカのビジネススクールに行った友人に話を聞くと、アメリカではなんでそんなに競争するんだろうと思いました。ハーバード大学の学部でも競争意識が高かったですね。

水永 アメリカのビジネススクールは競争が激しいですよね。でも、ビジネススクールに行って良かったと思うことは、日本人も外国人も結局は変わらないなということを感じられたことです。日本だけにいると、「外国人だから、言葉が通じないから怖い」となってしまいますから。

河合 私は日本に帰って来てまだ数年ですが、日本人は丁寧で親切で表面はニコニコしてるけど、心の中は何を考えているのかわかりかねています。イヤならイヤだとはっきり言ってくれる文化のほうが楽です。日本人の私ですら難しいのですから、外国人は苦労するでしょうね。

水永 異分子、異なるカルチャーを受け入れないですよね。移民が全然いませんし、世界ではとても例外的だと思います。でも、これから30年、このままやっていけるということは絶対ありません。教育の現場も企業の現場も、ただちにいろいろなカルチャーと触れなければならない。いまの高校生や中学生にはそういう準備をさせておく必要があると思います。

河合 我々の関わっている大学教育だけでなく、それ以前の教育も大切ですね。ところで水永さんが留学したころ、日本はどう見られていましたか?

水永 あのころは、「日本人に聞いてみようぜ」でしたよ。まだ、90年代でしたから。

河合 私もそうです。80年代はもっとすごかったですね。憧れの日本でした。ビジネススクールでクラスメートに認められるようになったのも日本についてクラスで発言したからです。それで発信することの大切さをつくづく感じました。

水永 「Japan as No.1」。私のころもまだその余熱がありました。今はもう「あ、日本人もいたの?」とされてしまいます。

河合 中国の人のほうが重視されています。

水永 チャイメリカですからね。自信を失っている人が多いと思います。でも、日本の強みは絶対にありますし、パー・キャピタは圧倒的に強いわけですからね。