アベノミクスの一本目の矢である金融政策、二本目の矢である財政政策は、ポリシーミックスによって景気があまりにも過熱したら金融を引き締めたりして抑制する、景気が落ち込んできたら金融緩和したり財政出動したりして、落ち込み過ぎないようサポートするという、景気をコントロールするための短期的な政策です。それに対して第三の矢である成長戦略は、日本の潜在成長率を引き上げようという中長期的なポリシーです。つまり、景気循環と経済成長は全く別物。アベノミクスで本当に重要なのは経済成長の実現であり、それが企業や投資家のマインドを変化させる最大の牽引役となります。

 潜在成長率の天井が下がると、足もとで景気がよくてもいずれ頭打ちになってしまう。その天井をもっと引き上げなくていけない、というのが長期的な成長戦略なので、これは一朝一夕にはいかない。たかだか2年の期間で成果を出せというほうが、土台無理です。我々が真に議論すべきは、現在の成長戦略の取り組みが本当に正しい方向を向いているのか、それが日本の潜在成長率を上げていくのに効果的なのかという点でしょう。

『日本再興戦略』は
企業革命に先鞭をつけた

――成長戦略は、目下のところ投資家のマインドに大きな影響を与えているでしょうか。

 1つ成果を挙げるとすれば、企業革命に先鞭をつけたということ。2013年に発表された「骨太の方針」は不評で、株価も発表の最中から下がってしまいました。それを仕切り直して2014年6月に出された「『日本再興戦略』改訂2014」は、投資家の間で前評判からして盛り上がりました。数多く述べられた施策の最初に掲げられたのが「ROEを高めること」だったからです。ROEを高めるために会社法を変えたり、コーポレートガバナンスを強化したりすることを通じて、株主のほうを向いていなかった企業経営者にマインドの変革を促したのです。

 さらにこれには、「内部留保を配当で株主に還元せよ」「従業員の給料を上げろ」とまで書かれている。国にここまで言われて、さすがに企業もやらざるを得なくなったわけです。その意味で言えば、これまで株主を向いていなかった企業が政府の勧めによって配当を払い、自社株を買い、さらには従業員の給料まで上げるわけなので、今回の相場は大元からして「官製相場」という言い方もできる。私は、この状況が最大のリスクだと思います。

 本来だったら企業が自発的にやらなければいけないことを国に言われてやる、ということについて、私は日本の資本主義の意識の低さを感じます。アベノミクスが終わったら企業の価値観も元に戻り、現在の相場も終わってしまうのではないか、という不安は持っています。