全体としての調和も資源になりうる

 顧客から見て特別な価値のある商品やサービスを生み出す、自社ならではの経営資源を持つ企業。

 たとえば、これに当てはまるのは、どんな企業でしょうか?

 三菱地所の丸の内地区の土地とビル群。トヨタのトヨタ生産システムとハイブリッド技術。東レの高機能繊維を開発する合繊技術などがあるでしょう。

 一方、セブン-イレブン、全日空、ヤマト運輸などは製造業ではないので、特許で守られた決定的な差別化技術はつくりにくいです。

 しかし、一つひとつの経営資源が磨かれ、全体としての調和がとれているためにお客様から高い評価を得ているのです。

資源を育てたセイコーエプソン

 資源アプローチで業績を伸ばした会社に、セイコーエプソンがあります。

 セイコーエプソンは、セイコーグループの諏訪精工舎を源流としています。

 東京オリンピックにクォーツ時計と記録用プリンターを開発し、その後、腕時計のクォーツ化を先導。プリンターやパソコンなど多角化を進めて業容を拡大しました。

 ところが、バブル崩壊後、90年代になり、同社は厳しい時代を迎えます。

 そこで1994年に「選択と集中」を掲げ、NECのPC98のコンパチブルパソコン、ハードディスク、フロッピーディスク事業から撤退すると同時に、94年から96年にかけて「コアコンピタンスは何か」という議論を重ねて3つの柱を決めました。

 それが、「カラーイメージング」「エナジーセービング」「マイクロエレクトロニクス」であり、これら3つの分野に経営資源を集中的に蓄え、今日に至っています。

 円高が続いた時代、業績は厳しい時もありましたが、2014年3月期は売上高1兆円で営業利益850億円と復活してきました。

 2015年度までの中期経営計画にも「互いに密に連携を持った強い事業の集合体になる」との言葉があります。

 エプソンが良かったのは、先述の3つの大きく目立つ壷を用意し、長期にわたって地道に経営資源を溜めていったことです。

 老舗鰻店の秘伝のタレも、壷がなければ流出してしまいます。自分の会社に秘伝のタレを溜める壷が、明示的に設定されているかどうかチェックしてみてください。

簡単に入手できるものは切り札にならない

 一方、資源アプローチで気をつけなくてはならないのは、自社が簡単に手に入れられるものは、競合にも簡単に手に入るということです。

 人的経営資源では、その会社固有の価値観やノウハウを持った人材、物的経営資源では固有の立地や自社開発の加工機械、情報的経営資源ではブランド、信用、特許、チャネルといった資源は、お金を出してもすぐには入手できません。

 逆に言えば、資源アプローチを学び、自社資源を分析して戦略を練ってもすぐに実現できないというジレンマもあります。

 しかし、着手しないことには5年後、10年後に価値を持つ独自の経営資源は手に入りません。

※次回は、6月16日(火)に掲載します