そんな連絡が頻繁に届きます。景気が後退するはるか前から、ホテル業界では他業種へ転職する若手・中堅が少なくありませんでした。
特に近年開業ラッシュが続いた外資系高級ホテルでは、開業して間もないにもかかわらず、人材が激しく入れ替わっています。
幹部は高収入・好待遇だけれども、その他のスタッフは低賃金。特に外資系ホテルでは、これがスタンダードです。
階級社会の構造が残る欧米、人件費が安いアジアではそれが成立するかもしれませんが、日本では英語を話すことができてサービス意識の高い人は他産業でも重宝されます。
それでも多くのホテルマンたちは、夢とプライドを支えに現場にとどまり、サービスを提供して来ました。
外資系ホテルの開業ラッシュのなかでも、帝国ホテルから転職者がいなかったのは、“帝国”という誇りはもちろんあるでしょうが、同社の社員待遇や昇進システムが大きく影響していたはずです。
不況に突入し、パート従業員のカット、社員のリストラ策が打ち出されて来ました。サービスの質を落として利益追求に走る経営に、ホテルマンたちは失望しています。
ホテルの宝はブランドの看板より何より“人”。不況に耐え、ホテルのハコを残すことができても、一度失った人材は戻らないでしょう。
今週の週刊ダイヤモンドは、「ホテル&旅館 大淘汰」特集です。
前述のような国内老舗ホテル・旅館、海外有名ブランドホテルの内情を明らかにし、「都内ホテルの収益力ランキング」を盛り込みました。
ホテルマン歴45年の日本ホテル協会会長が「初体験」と言うほど、不況のなかでホテル客は急減しています。外資系高級ホテルが大量に進出し、客室は供給過剰状態。客の奪い合いで激しい値下げ競争を繰り広げています。正規価格のほぼ半額で泊まれる超高級ホテルもあります。
有名ブランドホテルの進出計画は、全国各地で頓挫。ホテルを買い漁っていた投資ファンドは、意気消沈しています。
本特集の赤裸々な内容は、ホテル・旅館のカルチャーを愛する方々を不愉快な気分にさせるかもしれません。
しかし、ホテルや旅館は産業として過去最大の危機を迎えています。この深刻な実態をつぶさに捉えることで、生き残りへの手がかりを見出せないかと願い、レポートしました。ぜひご一読下さい。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 臼井真粧美)