マッキンゼーのプレゼンは「○○な言葉」しか使わない
そのころのマッキンゼーは、まだ内情のよくわからない謎の企業だった。
「(きっとハーバードやMITを卒業したとんでもないエリートたちが、ビジネススクールで身につけた知識で理論武装してくるんだろうな……)」
勝手にそんなイメージを抱いていた僕は、緊張しながら第1回ミーティングに臨んだ。
だが、彼らのプレゼンを聞いた瞬間に、そのイメージは完全に崩れ去った。
何より驚いたのは、彼らが「日常的な言葉」しか使わなかったことだ。耳慣れない奇妙なコンサル語はほとんど出てこない。
彼らは日本語がふつうに理解できる人であれば、誰でもわかるような一般的な表現を使って、すべての戦略を説明し尽くしていたのである。
おそらくキリンのビールを買って飲むことになるであろう、ふつうのおじさん・おばさんでも、マッキンゼーの人たちが策定した戦略プランは十分に理解できたはずだ。
つまり、言葉の「境界線」さえしっかりしていれば、専門用語や難しそうな横文字は必要ないのである。
彼らのプレゼンは、もちろん筋道の点でも非常にロジカルだったが、何よりもそれを構成する部品(言葉)が、しっかりと定義されていた。フレームワーク(境界線)で発想の範囲を分割するというステップが踏まれているのである。
業界内でしか通用しないようなテクニカルターム(専門用語)を、言葉の端々に散りばめながら話す人を見かけることがある。こういう人がそれぞれの言葉をどこまで厳密に考えているかは怪しいものだ。本当の思考力があれば、そんな見かけ倒しがなくとも、プレゼンテーションで人を動かすことはできる。