言葉の力でイノベーションを起こしたホンダ

語彙力こそが思考力や発想力の源泉であるということは、創造性のある企業を見ていても言えることだ。

クリエイティブな企業についてまず言えるのは、その大半が「後発」であるということだ。後発企業は、先行者利益を得ている企業と同じことをやっていても絶対に勝てない。
あとから市場参入したにもかかわらず、のちに業界トップにまで食い込んだ企業は、ほとんどの場合、何か新しいものを生み出している。

たとえば、ホンダが四輪自動車の業界に参入したのは、トヨタや日産よりもずっとあとのことだった。
にもかかわらず、なぜいまのホンダがあるのか?

僕が思うに、彼らの創造性はやはり論理思考の賜物である。そしてその本質は、言葉への徹底的なこだわりである。

かつてホンダの経営企画室長だった小林三郎さんによれば、同社の研究開発を担う本田技術研究所は、社内では「本田言葉研究所」と呼ばれていたそうだ。

「技術やクルマの研究の前に、言葉を巡って延々と議論が続く……(中略)新車の商品コンセプトを表現する言葉を決めるためだけに、3日3晩のワイガヤを3回やった開発チームもあった。とにかく、言葉に対するこだわりが半端ではない。そのため、技術ではなく言葉を研究しているという所という意味を込めて、本田言葉研究所と呼んでいたのである」(「日経ものづくり」2011年5月号より)

ワイガヤというのはホンダの社内用語で、年齢や役職を超えてワイワイガヤガヤと話し合う会議のこと。そもそも論からとことん考え、泊りがけでやるときには1日4時間ぐらいしか寝られないなどとも言われている。

遅れて自動車産業に参入してきたホンダが、今日のようなポジションを築き得たのは、同社がこうやって徹底的に言葉にこだわり抜く姿勢を持っていたからではないか。

天才ではない僕たち、つまり発想に必ず「バカの壁」が入ってしまう僕たちにとって、言葉を明確にするというのは、広くアイデアを出すために唯一とり得る道なのである。

※参考:バカの壁(第2回)
仕事ができない高学歴にも「バカの壁」が付きまとう

(第15回に続く)