虹は7色ではない!?

【藤原】津田さんの本で印象深かったのが、「言葉」についての考察。虹の話をしてるでしょう。

【津田】ええ。

【藤原】実は僕は講演の導入で、「虹は何色か?」って問いかけることがあるんですよ。

【津田】おお、そうなんですか!

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【藤原】「7色だと思う人?」って聞くと、9割くらい手が挙がるじゃないですか。「じゃあ7色、言ってみて」って言うと、高齢者層が多いときには大抵みんな言える。

【津田】「せきとうおうりょくせいらんし(赤橙黄緑青藍紫)」ですね。

【藤原】そうそう、それを知ってるの。若い人や女性が多いと「赤青緑黄紫」までは出るんだけど、橙と藍が出ない。「じゃあ5色じゃないですか、あと2色ないじゃないですか」って言うと、すごくウケるんです。

僕がフランスに行ったとき、あるコンピューターゲーム会社のロゴにアルマジロがいて、それが5色に塗ってあった。フランス人のビジネスパートナーに「これってなんで5色なの?」って聞いたら「虹の色だよ」って言うから、「何言ってんの、虹は7色じゃん」って言い返したんですよ。
「じゃあ、あと2色言ってみろ」って言われたんだけど、言えなかったの。要するに単語を知らなかったんだ。

【津田】なかなかパッとは出てこないですよね。

【藤原】それで日本に帰ってきてから、それを森本毅郎さんのラジオ番組で話したらものすごくウケちゃって(笑)。そうしたら番組のディレクターが調べてくれて、アメリカでは州によって違うと。

【津田】そうみたいですね。6色もある。

【藤原】そうそう、6色のところもあるんだ。つまり何が言いたいかというと、この本の結論に近い部分で書かれていた「言葉」の話なんです。言葉が概念をつくり、言葉が論理性もつくるという。
アフリカの原住民の世界では、虹は2色というところがある。それは明るい色と暗い色っていう表現しかないからなんだね。

「700個のケーキ」を「800人の避難民」に届ける方法を考える「言葉にならないものについては考えられない。だから、まずは言葉の『境界線』を知ることが大切」と津田久資さん。

【津田】古代沖縄も2色だったと聞いたことがあります。

【藤原】つまり、言葉がそれだけしかなければ、それだけしか見えないし、考えられないわけです。実際、本当に虹を見て7色も見えるわけがない。橙はともかく「青と紫の間に藍色が肉眼で見える」なんて言う人はほとんどいないでしょう(笑)。そういう意味で「言葉が思考を形づくっている」というこの本のお話って、まさにそのとおりだなって思ったんですよね。

「超やべぇ」をブレークダウンする

【藤原】たとえば「グローバルスタンダードでは」って横文字の言葉を使えば、なんかそのまま通っちゃうみたいな傾向があるでしょう。でも、本当は「それってどういう意味なのよ?」って突っ込んでいかないといけない。

【津田】そうなんですよ。

【藤原】教育の現場でも同じことが言えるわけです。子どもは「超やべぇ」とか言うじゃないですか。だから「みんな『超やべぇ』って言うけど、もうちょっとそれ、どういう意味か考えてみて」というようなことを、国語の時間で徹底的に追及すべきなんです。「超やべぇ」を100通りに言い換えてみろ、とかね。

【津田】なるほどなるほど。社会人向けの研修とかでも似たような演習を出すと、けっこうひどい結果になったりしますよ。だいたいこう言うんですよ、「ケース・バイ・ケースで、いろいろあります」って(笑)。

【藤原】なるほど(笑)。

【津田】「ケース・バイ・ケースと言うなら、じゃあそのケースを全部出して」って僕は言うんですよ。そしたら結局5つぐらいしか出てこない。5つしか出ないくせに「ケース・バイ・ケース」で済ませているのは考えてない証拠であり、5つしか言葉が身についていないっていうことなんです。

【藤原】わかるわかる。だから、日本って水戸黄門の印籠のように、出すとみんなが「ははーっ」てなるようなマジックワードが多い。

ちょっと前までは「正義」という言葉もそうだったでしょう。それがマイケル・サンデルが白熱教室で「正義でさえも条件によって違うでしょ」ということを指摘して、ようやくみんなが考え始めた。