「よのなか科」でやっていること

【藤原】僕がやっている「よのなか科」の授業で一番ウケてるのは、「700/800問題」。
「避難民が800人収容されている避難所に700個ロールケーキが届いた、さてどうやって分けるか」という問題です。800分の700だから、普通に数学的に「学ぶ」側で考えたら割り切れない。「さて、どうするか?」というわけです。

これは実話をベースにしていて、本当に僕の友人が東北の被災地にボランティアで700個ぐらいのロールケーキを持って行ったんですよ。
そうすると、800人くらいが収容されている避難所がロールケーキの受け取りを拒否しちゃったらしいんだ。

そういう避難所って、だいたい学校関係者、教頭先生なんかが責任者をやっているんですよ。教頭先生は「学ぶ」時代の頭なので、「800人いるから800個持ってきてほしい。そうじゃないと公平に分けられないじゃないか」っていう考えなんですね。

【津田】ひどい話ですけど……リアルですよね。

【藤原】何が言いたいかっていうと、「公平とは何か」っていうことでさえ、状況によってまるで変わってくるんです。「学ぶ」の時代は、「量の平等」だからロールケーキを切り分けてでも、全員に均等に配る。ところが「考える」の時代は、それぞれ1人1人の「納得解」があれば公平が保証されちゃうんですよ。

【津田】計算問題の延長線上で、現実に向き合っているんですよね。

「700個のケーキ」を「800人の避難民」に届ける方法を考える「正解主義」にとどまっている限り、「量の平等」を超える「公平」は実現されない。

【藤原】だから、官僚や政治家なんかが「学ぶ」頭のままだと、無限に無駄が起こっちゃう。みんなは「納得解」を求める時代になっているのに、いまだに上から目線で「量の平等」しか見えていないから、すぐに「万遍なく金を撒こう」という発想になる。

そうではない、もっと柔軟な思考力を鍛えるために、津田さんは本の中でツリーを使って思考を発散させる方法を紹介していますよね。
僕はどちらかというと、ブレストやディベートをやらせながら、浮かんだアイデア1つ1つをそれぞれポストイットに書かせて、バーっと紙の上に貼り出させる。テーマは「流行る店の特徴」とか「20歳になったら何になるか」とか何でもいいんです。

【津田】なるほど。

【藤原】それから5人くらいのグループになってアイデアの分類をさせます。「なるべく近いアイデアはそばに貼って、遠いものは離して貼るようにしてね」と言うと、中学生でも高校生でも分類はできる。最後に、分類ごとに丸で囲って「名前」をつける。僕はこれを中学生や高校生相手の「よのなか科」でやっているわけだけど、津田さんは同じようなことを企業のビジネスマン相手の研修会でやってるんだと思うのね。

【津田】ええ。いきなりツリーにせずに、藤原さんの授業みたいにバーッとアイデアを出してもらうこともありますよ。グルーピングするっていうことは、自分が考えている「枠」とか「前提」を見えるようにするということですよね。さっきのロールケーキの例で言うと、700個のロールケーキ受け取りを拒否してしまった人っていうのは「避難している800人全員が、ロールケーキを喜んで食べるということを前提にしているわけでしょう。

【藤原】完全にそうなんです。

【津田】つまり、「食べない人もいるという前提が見えていないということです。でも、アイデアを分類して、ぐるっと丸で囲んでグルーピングすると、その前提がわかってくるわけですよね。そうすると「こっちの前提でも考えなくていいの?」ってことが見えてきて、発想がさらに広がるようになる。

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本を読む人だけが手にするもの』(藤原和博[著]、日本実業出版社、本体1,400円+税)

【藤原】よくわかります。そうだよね。そうすると、ロールケーキを食べない人の中にもいろんな理由があるということがわかってくる。

【津田】そうですそうです。

【藤原】特にこういう成熟社会になってくると、たとえばケーキが好きだったら必ず食べるかというと、そうじゃない。「好きなんだけど今はダイエット中で、半年間我慢してるんだ」という人は、ロールケーキを渡されたら逆に迷惑でしょ?(笑)

※「結局、どう配ればいいの!?」が気になる方は「受験サプリ」の「よのなか科」の授業をご覧ください。
http://jyukensapuri.jp/teacher_future/