21世紀の体育会系は
ビジネスの場でも求められる人材になる

岩崎 人間は型、もしくはとっかかりがないと、何もできなくなってしまうことがあるんですよね。僕が放送作家をしていたころ、あるコント番組の放送作家をしていた先輩が、視聴者から投稿募集で、「オフィスにOLと課長が一緒にいるシチュエーション」とか「学校の先輩と後輩」などとテーマを出すと投稿があるのに、「なんでもいい」と制約を取っ払うと投稿が減ると話していました。型があると自由に表現できるのに、自由になると何も浮かばなくなるということですね。

布施 スポーツも同じで、ルールがないと戦略が立てにくいものです。ミーティングでも、「何でも話してください」と言うと誰も発言しないですが、テーマを提示するといろんな発想が飛び出してくる。その意味において、マネジメントはテーマを与えたり、個人に場を与えるのも仕事の一つなんですよね。

岩崎 ある種、舞台の演出家にも近いですね。

布施 テーマや場を与えるにあたっては、その意図や狙いの提示も大事です。意図や狙い通りにいかなくてもいいんです。むしろ、その通りにいかないことが起きたときのほうが面白くなったりする。個々人がいろんな予想外の出来事をタグ付けしていくことで、経験をアーカイブ化できるようになる。ひいてはチームの中でもアーカイブ化されていく。

岩崎 ある種の伝統になるということですね。高校野球でもプロ野球でも、逆境のない、すんなり優勝したというチームはあまり聞きませんよね。もしかしたら、監督やマネージャーが逆境を演出するというのも、いいのかもしれません。

 例えばダルビッシュ有投手などは、調子を上げるために、あえて調子の悪い時期をつくると言っています。マネジメントもうまくまとまらない時期を演出してつくるということが、あっていいと思います。技術的な情報はインターネットでも共有できるし、最新の大リーグの試合だってテレビで簡単に見られる今の時代において、技術面での抜きんでた進化は少なくなりつつあるといえます。でも、組織論は共有されていないからこそ進化の余地がある。

布施 例えば『もしイノ』みたいなチームでは、何かをリジェクトするときに次々に代替案が出るようになり、そういう組織にいる人間は、ビジネスの現場でも必要とされます。すると、スポーツの組織にいた人間、しかも昔ながらのではなく今どきの体育会系にいた人間は、就職活動にも強くもなっていきますね。

岩崎 21世紀の体育会系ですね。昔から体育会系の人間は就職に有利だなどと言われていましたが、今の体育会系はいろんなスキルを身につけられる環境にいたという意味で歓迎されるようになりそうです。実際そういう人材が育つチームであれば、チームそのものも強くなるという結果にもなるでしょうし。

 しかも体育会系とはいえ、スポーツがまったく不得意な人にも門戸が開かれるようになればなおいいですよね。僕はスポーツが苦手な人でも、運動部に所属する可能性があることを提案したいんです。もはや高校の部活のマネージャーでも、その役割は下働きであってはならない時代だと思います。先生がすべてを管理する学校は強豪競合でいられない。そのなかで、運動が不得手な子でも体育会系に所属して、重要な役割を果たせるのではないかと。

スポーツの場からライフスキルの高い人材を育てる

布施 私自身、今後はスポーツの中で、いろいろなところで活躍できる人材がどんどん育っていくはずだと思っています。スポーツの場はいまや、単にプロ野球選手になったり、サッカー選手になることだけが目標ではなくなっています。そこで培ったライフスキルが、社会に出たときに生かせるものになる。

 実際に、すでに慶応大学では野球部に関わりたい人を、選手以外でもどんどん呼び入れています。これは学生に限定していません。日本ではまだ大学スポーツも出身校の応援にとどまることが多いと思いますが、アメリカでは地域の人全体を巻き込んでいますよね。そんなふうに、スポーツのカテゴリーどころか体育会系というカテゴリーにもこだわらずに、学校中の人を巻き込み、同窓生、地域の人たちにもどんどん参加してもらって、これまでにない仕組みを考えていく。そういうマネジメントがあっていいと思います。スポーツには、最終的に勝利という目標があり、時間や期間が決まっているので、試行錯誤したり、成長したりする場として優れていますよね。

 あるいは、今回はたまたまスポーツをテーマに話していますが、僕は、フィールドが作れればなんでもいいと思っています。吹奏楽部でも、手芸部でもいい。クラブじゃなくてサークルでもいい。語学のクラスでもいいんです。チームや人が集まる場のすべてにおいて、マネジメントは使えるはずです。

岩崎 その地域も含めて、スポーツの場に参加していける社会になればいいですよね。その輪がどんどん広がっていけば、多くの人が居場所を見つけ、幸せを感じる社会になると思うんです。学校教育の目指す一つのポイントもそこにありそうです。

布施 学校教育では、正解があるような勉強も必要ですが、正解がないことに対してもチャレンジし、自分の中で仮説を立てながら検証していく場も必要だと思います。でも、それは教室の中だけではやりづらい。だからスポーツの場を活かせるといいのだと思います。そのためには、今までのような、野球がうまくないと大学の野球部は入れないという考えの壁をまず取り壊すところからですね。いろいろな可能性を持った人にしっかり門戸を開きながら、組織として活性化させていく。それによってスポーツ文化も成長していくのだと思います。『もしイノ』は、選手以外のマネージャーたちに焦点を当てていることで、その気づきや問題意識を抱くきっかけになるものだと思います。

岩崎 ぜひ先生に、スポーツ文化を成長させていただきたいです。僕は、タンポポの種じゃないですけど、いろんなところにドラッカーの考えを伝播するのが自分の役割かなと思っています。その種まき軍団になりたい。

布施 僕はどちらかというと、土耕し軍団ですね(笑)。いい土壌をつくるので、岩崎さんにはどんどん種をまいていただければと思います。