英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は何がどうしたって「岡田JAPAN」の話題です。日本人が「岡ちゃん、ごめんね」と国民的謝罪(?)に至る顛末を、米主要メディアまでもが大きく取り上げ、そしてFIFAサイト記事は「日本はブルーな気持ちを捨てたサムライ集団になった」と賞賛。つまり英語メディアさえもが事実上の「岡ちゃん、ごめんね」状態にあるわけです。これって夢かしら。(gooニュース 加藤祐子)

世界が事実上の「岡ちゃん、ごめんね」

 「岡田、解任しろ」から一転「岡ちゃん、ごめんね」へと毀誉褒貶も甚だしい、今や日本一の「勝てば官軍」的な絶賛を浴びている岡田監督。このコラム掲載の頃には日本がベスト8に残るかどうかが分かっているわけですが、ここまで来たら勝っても負けても、岡田JAPANの偉業が消えるものではありません。

 約1年前に岡田監督が「ベスト4」を目指すと発言した時、それは世界的に驚き(と一部の失笑)でもって迎えられました。約1年前にこちらでご紹介したようにロイター通信は「岡田監督は浮ついたお調子者なのか?」とバッサリ。これに類することは数多の外国メディアが書いていました。

 そして大会開始。米スポーツ専門局「ESPN」のサイトは、「グループリーグで良かったこととひどかったこと」という6月25日付コラムの中で、「最優秀選手=アルゼンチンのメッシ」とか「最優秀監督=アルゼンチンのディエゴ・マラドーナ」、「最悪監督=フランスのレイモン・ドメネク」、「最もつまらない試合=イングランド対アルジェリア」などに並んで、「最も意外だった選手=日本の本田圭佑」を選出。その選出理由は、「日本の岡田武史監督が目標を準決勝に定めた時、熱でもあるのかと思われたものだが、ブルー・サムライは本田の絹のような技術のおかげで実際にベスト4にたどりつくかもしれない」からだ、と。

 つまり、高熱にうかされてうわ言を口にした男と見なされていたわけです、岡田監督は。国内外で。この約1年間というもの。

 それが大会の蓋を開けてみれば、誰もが驚く日本の躍進。そして、誰もが驚く欧州強豪の苦戦。その対比があるからでしょうか、FIFA公式サイトの26日付AFP記事では、日本が「against all expectations(あらゆる予想を覆して)二次リーグに進んだ」ことで、岡田監督が「regained credibility(信用を取り戻した)」と。

 そしてさらに驚いたことに、米『ニューヨーク・タイムズ』が28日付で、岡田監督の名誉回復に関する詳しい記事を掲載しました(なぜ驚きかというと、サッカー不毛の地だったアメリカのメディアがワールドカップについて詳報するのを見るたびに、私は脊髄反射的に驚いてしまうからです。あまりに隔世の感があって)。

 そのタイトルも「Japan’s Coach, Once a Punch Line, Is Having the Last Chuckle(かつて笑い話のオチ扱いだった日本の監督、最後に笑うのは彼だ)」と。「punch line=冗談のオチ」扱いされていたわけです、岡田監督は。いやはや。

 (――と思ったら、その後、この記事の見出しが「Japan’s Coach Is Having the Last Chuckle(最後に笑うのは日本の監督)」となり、「punchline」という表現が記事本文からも削られていました。ネットの場合、記事掲載後の修正は誰でもやることですが、記者や編集の誰かがちょっと言い過ぎたかと思い直したのだとしたら、それもまた「岡ちゃん、ごめんね」現象の一環では、なんて)

「ベスト4」発言は「狂気ではなかった」と

 『ニューヨーク・タイムズ』のジェレ・ロングマン記者は書き出しからいきなりこうです。「2カ月前、1カ月前、いや2週間前でさえ、この厳しい男の言葉に耳を傾けようと言う者はほとんどいなかった」と。さらに、「岡田武史の言うことをまともに受け止められるはずなどなかった。日本が準決勝に? 国外でW杯の試合に勝ったことのないチームが? 準決勝まで行くという岡田の予言は、戯言に聞こえた。岡田は笑い者になったのだ」とまで。

 にもかかわらず、日本は「surprisingly(意外にも)」決勝トーナメントに進出。「日本のファンはチームにブーイングするのを止めた。岡田をクビにしろと言うのも止めた。代わりに、日本時間では真夜中に始まり明け方に終わる試合を、国民の40%が見つめているのだ」。

 記事は「53歳でメガネをかけていて、コメントの端々に宗教や哲学や歴史についての講義を挟み込む」岡田監督が、倒れたオシム氏の後任に急きょ選ばれてからというもの、いかに日本国内で批判され続け、「悪い冗談」扱いされ、トルシエ元監督には「岡田の頭は混乱している」とまで言われ、サポーターからはクビにしろクビにしろクビにしろと言われ続けて来たかと、まあ、サッカー好きの日本人には周知のあれこれを列挙していきます。

 そして記事は、大会開始と共に岡田監督が「日本で最も有名な選手、クリエーティブなMF中村俊輔をベンチ送りにして、脱色して金髪の本田圭佑をただ一人のストライカーとして配置した」ことを特筆。さらに「本田は、髪の色は偽物かもしれないが、その技術は本物だ」と、本田選手の金髪にこだわっています。日本人がなぜ金髪なのか、読者に説明しておかなくてはと思ったのかもしれません。

 さらに「パラグアイを破った場合、日本は準々決勝でスペインかポルトガルと対戦する。なので、日本の準決勝到達は今でも難しそうだ。しかし岡田の予言は今では正しく評価されている。あれは狂気ではなく、動機づけだったのだ」と。「ベスト4」発言は決して戯言ではなく、選手に本気を出させるための計算づくの発言だったのだと。『ニューヨーク・タイムズ』紙上で、岡田監督の発言は戦術の一環と認められたわけです。

 長いことサッカーに不熱心だったアメリカのメディアがW杯を詳報しているだけで驚く私は、『ニューヨーク・タイムズ』だけでなく、よりによって『ウォール・ストリート・ジャーナル』までもが岡田監督の復権について書いているのを見て、仰天しました。

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