費用対効果で示せる判断なら、経営者は不要

 熱海の旅館になってしまったITを、式年遷宮を見習ってゼロから作り直す。しかし、まったく新しいビジネスを立ち上げるわけではないから、売上げや利益には直結しない。
 必要性はわからなくはないけど、そんな投資が許されるものでしょうか?

 わたしが尊敬する、ある経営幹部の言葉を紹介しましょう。

「費用対効果で示せる判断なら、経営者は不要」

 たしかに、「1億円投資して3億円儲かります」という投資計画は、あまり悩む必要はありません。
「見積もりが甘すぎないか?」「損得以外の落とし穴はないか?」というチェックは必要でしょうが、それは社長じゃなくてもできるでしょう。
 会社の将来を見据えた決断というほど難しいものではありません。

 それよりも、社長が決断を下すべきは、
  ・簡単には効果が見えない投資
  ・だが、長期的な繁栄を支えるためには必要な投資
  ・または、大きなリスクを未然に防ぐ投資
 といった、式年遷宮のような悩ましい決断なのです。

 もちろん、ITにそれほど詳しくない社長が、こうした答えのない決断を下すためには、普段からITについて理解を深めてもらうことが必要です。

 この連載では繰り返し、「ITを丸投げするな」とお伝えしています。
 これをもう少し具体的に言うと「正解のない、数字で表せないような判断を現場に押し付けるな」ということになります。

 例えば、
  ・コストとリスク、どちらを重視するか
  ・ITは内製すべきか、外注すべきか
  ・短期利益と長期利益のどちらを優先すべきか
 といった判断です。

 大げさではなく、ITについて真剣に考えると、このような悩ましい判断によく直面するのです。
 これは、経営幹部の仕事でしょう。逃げられません。