アドラー思想の普遍性が
証明された
──日本とほぼ同時に韓国からもミリオン達成という吉報が届きました。
古賀 日本だけのベストセラーであれば、運やブームもあっての結果ということがあるかもしれません。けれど韓国や台湾(2月末時点で25万部)でも大きなヒットとなっているということは、アドラーの思想や『嫌われる勇気』に普遍的な要素が含まれていた証明になっていると思います。
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。世界各国でベストセラーとなり、アドラー心理学の新しい古典となった前作『嫌われる勇気』執筆後は、アドラーが生前そうであったように、世界をより善いところとするため、国内外で多くの“青年”に対して精力的に講演・カウンセリング活動を行う。訳書にアドラーの『人生の意味の心理学』『個人心理学講義』、著書に『アドラー心理学入門』など。『幸せになる勇気』では原案を担当。
岸見 私も普遍的な内容であることがとても大きいと感じています。アドラーの研究を始めた頃、「アドラーの思想は時代を半世紀先駆けている」とする論文があったんです。けれどいくら私がアドラーの翻訳を進めても一向に世の中が変わらない。そこであるときから私は「時代を一世紀先駆けている」と言い出しました(笑)。ですが、いよいよアドラーの理想としていた世界が実現に近づいてきているのかな、と。もちろん現在進行中なのですが、機は熟しつつあるという感じがしますね。
古賀 普遍性ということでいうと、ピーター・F・ドラッカーとアドラーはすごく近い気がします。ドラッカーは最新の経営学を研究している専門家からは過去の人と言われることもあるそうですが、彼が述べていたことは極めて本質的で普遍性がある。実際の経営者がドラッカーを読んで学ぶべき点はすごく多くて、おそらく100年後、200年後まで読み継がれていくでしょう。アドラーも似ていると思います。最新の精神医学や心理学の研究者からは、古くて宗教じみていると批判されることもありますが、そうした研究者たちが到達していない普遍的な思想をアドラーは残している。いま、この時代にもう一度アドラーを読み返すことは、非常に大切だと思います。
──その普遍性があれば、アジアを超えて欧米圏でも『嫌われる勇気』が読まれる日が来そうですね。
岸見 オーストリアにアドラーの研究をしている友人がいます。彼女は日本で『嫌われる勇気』によってアドラーブームが起きたことにとても驚いています。というのも、私が研究し始めた頃と異なり、いまはアドラーの出身国オーストリアですら彼はあまり注目されていない。だから私の友人は、オーストリアに逆輸入される日が来ることを強く期待すると言っていました(笑)。早くそうなることを願っています。