学生が社会に出て役立つことを教える「ツカラボ」の取り組み

「塚田農場」の学生バイトに<br />企業の採用ラブコールが集まる理由中原淳(なかはら・じゅん)
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授。東京大学大学院 学際情報学府(兼任)。東京大学教養学部 学際情報科学科(兼任)。大阪大学博士(人間科学)。
1975年北海道旭川生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2006年より現職。
「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論。
著書に、『会社の中はジレンマだらけ』(光文社新書)、『アクティブトランジション』(三省堂)、『職場学習論』(東京大学出版会)、『企業内人材育成入門』『研修開発入門』『ダイアローグ 対話する組織』(以上、ダイヤモンド社)など多数。

【中原】今回、いちばん気になっていたことの1つが、御社でやられている「塚田農場キャリアラボ」の取り組みです。これについてのお話を伺えますか?

【大久保】塚田農場キャリアラボ、通称「ツカラボ」は、当社運営の店舗で働くアルバイトの大学3年生を対象にした無料の就活支援セミナーです。

【渋谷和久(以下、渋谷)】アルバイト学生向けに就活支援をしている会社というのは、かなり珍しいと思うのですが、どのような経緯で始まったんでしょうか?

【大久保】「塚田農場」錦糸町店の店長だった頃、就活シーズンに学生が一気に辞めてしまい、困ったことがありました。「塚田農場」のアルバイトはほとんどが大学生です。学生バイトは就活期になると、忙しくてバイトを辞めてしまったりとか、辞めなくても就活に悩んだりしてパフォーマンスが下がったりといった問題がありました。

【中原】なるほど。錦糸町店の店長時代にも、「バケツの穴」感、つまり人がどんどん辞めていく、という徒労感があったんでしょうか?

【大久保】当時、アルバイトの平均在籍期間はだいたい1年半くらいでした。しかも、錦糸町店は2年生の学生さんが多かったんです。つまり、大学3年生という、いちばん脂の乗ってくる時期に、みんな辞めていってしまう。これは本当にお店にとっては痛手でした。

そこで考えたのが「彼らの在籍をもう1年間延ばせられないか」ということです。3年生スタッフの就活を支援すれば、彼らの在籍期間をもっと延ばせるかもしれない。もっと言えば、彼らが長く働いてくれれば、次の人を採用するコストも減らせるかもしれない。そういう見通しがあったので、とりあえず始めてみようということになりました。

「塚田農場」の学生バイトに<br />企業の採用ラブコールが集まる理由

「就活支援」の取り組みの結果、
アルバイトの平均在籍期間が1.87倍に!!

「塚田農場」の学生バイトに<br />企業の採用ラブコールが集まる理由渋谷和久(しぶや・かずひさ)
テンプホールディングス株式会社 グループ営業本部 本部長 兼 株式会社インテリジェンスHITO総合研究所 代表取締役社長
1999年新卒にてアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2004年インテリジェンスに中途入社。アルバイト求人広告事業(an)にて営業企画部門、大企業向け営業部門、代理店統括部門の各責任者を経て、2011年よりインテリジェンスのグループ営業本部長。インテリジェンスとテンプグループの経営統合による組織再編により、2014年4月より現職。
日本を代表する大手・成長企業に対し、テンプグループを代表して中長期的かつ幅広い視点でソリューションを構築・提供する役割を担う。
インテリジェンスHITO総合研究所では人事・組織コンサルティングサービスと「HITO(ヒト)」をテーマにした調査・研究活動を牽引している。

【中原】ツカラボをやってみて、どんな効果がありましたか?

【大久保】まずは就職活動についていろいろ調べてみたんです。すると、就活では学生が企業側の思惑に振り回されたり、人気企業だからというだけでうっかり飛びついてしまったり、20〜30年前の自分の体験から意見する親の考えを聞きすぎてしまったり、といった問題が見えてきました。まずは、そういう実態について、学生スタッフに教えてあげることに意味があるんじゃないかと思ったんです。

あとは、「就職活動だけするな」ということは繰り返し言いました。就活だけをしている学生って、学校にいても家に帰っても、就活のことばかり考えている。これだとどうしても悲壮感が漂ってきます。それが面接官に伝わってしまうのはあまり得策とは言えないでしょう。だから、「週3で3時間くらい働けば? 悩んでいるなら話を聞くよ」と言ってみたんです。

そうしたら、バイトを続けた学生スタッフ全員が、みんな希望の会社に受かったんです。バイトでお金を稼ぎながら受かったんですから、これは素晴らしい、全社的にやるべきだということになって、今日に至っています。

具体的な成果で言えば、アルバイトの平均在籍期間が1年半=450日だったのが、750日くらいまで、つまり1.87倍に伸びました。つまり、採用コストが単純に半分くらいになったわけですね。