目の前のことと先のこと、
両方見て採用するのが大事

【中原】ちなみに、我々の調査に基づいた正確な数字を申し上げますと、内定を出したのに入社に至らないアルバイトが「4人に1人くらい」という結果が出ました。これは実感としていかがです?

【A店長】競合は飲食店に限らないからですからね……。私の店の前に大型量販店ができたんですが、私の店よりも時給がいいんです。募集広告には「時給1500円」と出ていましたが、それは研修期間だけで、のちのち1000円くらいになるんだと思いますが…それでも、私のところは950円からのスタートなので負けています。飲食に限らず周辺にある時給のいいところに、アルバイトさんが集中していると思いますね。

【B店長】うちはあえて最低時給から上げません。「970円の時給でいい」という方を採用します。お金で釣ろうとすると、そういう人は結局ほかの高いところに行っちゃいます。近くの店では、時給1050円なのに人が集まっていませんから、高ければいいというわけでもないと思います。
あと、うちの場合は時間の融通が利くというのがメリットだと思います。たとえば、子どもを保育園に預けている主婦の方だと、2~3時間の勤務でもOKとしていますが、それが大きなポイントではあるようです。

【A店長】うちは学生さんしか集まらないので、「週2日入って」ではなく「月10日入って」という伝え方をしたりしていますね。学生さんは試験のときなど、週2日が難しい時期があるので、なるべく都合をつけやすいように気をつけています。
ただ、特定の層や年代のスタッフを集めすぎると、リスクが高くなるなと感じています。たとえば「いま大学2年生がすごく多いので、1年生を採らない」とやっちゃうと、いまの子たちがごそっと抜けたときに困ります。先のことを考えて採用しないと、1年後、2年後に痛い目に遭うでしょうね。

【中原】間に合っている近いところを見ながら、未知数の遠いところを見ないと。

【A店長】そうですね。アルバイトさんもすぐには育たないので、一人前になってもらうことを考えて早めに採って、1年後にはまわりを巻き込むくらいの人を育てようとしないと、仮に自分が異動になったときに次の店長に迷惑がかかってしまいます。そうやって店が回らなくなってしまうと、会社全体に悪影響が出ます。

(第3回に続く)

聞き手:中原淳(なかはら・じゅん)
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授。東京大学大学院 学際情報学府(兼任)。東京大学教養学部 学際情報科学科(兼任)。大阪大学博士(人間科学)。
1975年北海道旭川生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2006年より現職。
「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論。
著書に、『会社の中はジレンマだらけ』(光文社新書)、『アクティブトランジション』(三省堂)、『職場学習論』(東京大学出版会)、『企業内人材育成入門』『研修開発入門』『ダイアローグ 対話する組織』(以上、ダイヤモンド社)など多数。