「週刊ダイヤモンド」2010年4月17日号の特集「ウォール街 復活の光と影」からの特別公開第3弾。規制強化が米金融機関に与える影響を検証します。※本文及び図表類は本誌掲載時のまま再掲載しています。

規制強化が米金融機関に与える影響はいかほどか。ボルカー・ルールは商業銀行に厳しい内容である一方で、投資銀行へのインパクトも、決して小さくはない。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史、田島靖久)

「9・11同時多発テロと同程度の傷跡を残した」──。

 ある米金融関係者は、今回の危機の影響の大きさをこう表現する。

 サブプライム危機が表面化して以降、米金融業界の状況は様変わりした(下図参照)。米投資銀行大手5社のうち、いまや生き残ったのはゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの2社のみ。

 その2社も2008年9月、米連邦準備制度理事会(FRB)の流動性供給を受けるべく銀行持ち株会社に転換。“純粋な”投資銀行は消滅してしまった。

 これほどの大再編をもたらした危機の背景には、過去20年間にわたる金融規制緩和があった。投資銀行はレバレッジ比率を急上昇させる一方、商業銀行もさらなる儲けを求めて証券業務に進出。共に複雑な証券化商品に手を染め、多大な損失を被った。

 だが、金融各社はすでに、公的資金という名の税金注入を経て、実体経済の悪化を尻目に業績を回復させつつある。ライバルが減ったことも、生き残った各社の市場シェア拡大に拍車をかける。

 むろん、危機を招いた原因が自分たちの過度なリスクテイクにもあったことは、金融機関側も重々承知している。だからこそ投資銀行は自ら、ピーク時に30倍以上もあったレバレッジ比率を、現在は15倍前後と商業銀行並みに落としてきた(下図参照)。

 にもかかわらず、金融機関には規制強化の波が襲いかかる。しかも、新たな規制の中身が、危機の原因となった流動性の確保やレバレッジ規制にとどまらず、ビジネスそのものの変化を強いるものだったから、「危機の原因と関係ないものが含まれているのは理解に苦しむ」と、元リーマン・ブラザーズの社員で現在もウォール街で活躍する金融マンは顔を曇らせる。