脳疲労は「過去と未来」から来る
─心のストレッチ
「昨日確認したマインドフルネスの定義を覚えておるか?『評価や判断を加えずに、いまここの経験に対して能動的に注意を向けること』じゃ」
ヨーダが言った。「呼吸を意識するのは、いまに注意を向けるためなんじゃ。これをマインドフルネス呼吸法という。ま、呼び名はどうでもいいがな」
「どうしていまがそんなに大事なんですか?私は今回の失敗を取り戻すために、明日には〈モーメント〉のみんなに謝って、お店の立て直しをしないといけないんですよ?もう少し落ち着いたら、研究も本格的に再始動するつもりだし……」
「ふぉふぉ」
いつもの甲高い笑い声を発してから、ヨーダは人さし指を立てた。「それじゃよ、まさに。脳のすべての疲れやストレスは、過去や未来から生まれる。すでに終わったことを気に病んでいたり、これから起きることを不安に思っていたり、とにかく心がいまここにない。この状態が慢性化することで心が疲弊していくんじゃ。
うつ病の人によく見られる、くよくよと過去のことを考えてしまう状態(反芻思考)が、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の過剰活動に関連すると言ったのを覚えとるか?まさにヒステリカル(hysterical)はヒストリカル(historical)じゃ。心の乱れは、過去に縛られることからはじまる。
過去や未来から来るストレスから解放されることこそがマインドフルネスの目的じゃ。ちなみに、これは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のマインドフルネス研究拠点であるMARC(Mindful Awareness Research Center)で教育ディレクターをしておるダイアナ・ウィンストンの言葉じゃ」
先のこと・あとのことに心を奪われた状態が当たり前になると、人間はいまここに意識を向けるやり方を忘れてしまう。しっかりと脳を休息させたかったら、まずはいまここにいる状態を体得しなければならない。マインドフルネス呼吸法はそのためにあるということのようだ。
「マインドフルな脳の状態というのは、いわば子どもや動物の心に近いと言えるかもしれんな」
ヨーダは続けた。「子どもというのは、いつも目の前のものに積極的に注意を向けとるじゃろう。これは、すべてが彼らにとっては新鮮だからじゃ。小さな子どもは何かをしている最中に、別のことをくよくよと考えたりはせん。エサを食べながら、昨日のことを後悔したり、明日のことを心配する犬もおらん。マインドフルネスというのは、あたかも初めて触れるかのように世界を捉え直し、いまここを保ち続けている子どもや動物の心を取り戻すことなんじゃよ」