スクープ1

化粧品大手ポーラ・オルビスホールディングスの元ナンバー2が鈴木郷史社長による書類捏造疑惑を内部告発したことで始まった巨額の遺産対象確認訴訟で、原告が「捏造を認めた証拠」と主張する、鈴木社長らの音声データ3本全てをダイヤモンド編集部は独自に入手した。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

 「約20年前の書類捏造疑惑」の告発に端を発し、化粧品大手ポーラ・オルビスホールディングス(HD)の鈴木郷史社長は、叔父(2代目社長の故鈴木常司氏)の妻千壽氏に巨額の遺産対象確認を求められている。故常司氏は戦後の大富豪の一人で莫大な遺産があった。遺産相続を巡り鈴木社長と千壽氏が法廷で争うのは2001~05年以来で、いわば“争族”訴訟第2ラウンドとなる。

 千壽氏が18年5月に東京地裁に提訴してから2件の裁判が並行して審理中で、そのうち神奈川・箱根のポーラ美術館の美術品に関する訴訟は9月9日に鈴木社長、告発者であるHD元ナンバー2らの証人尋問というヤマ場を迎える。

 千壽氏は元ナンバー2が告発した二つの書類捏造疑惑を根拠に、「鈴木社長が不正に手に入れた故常司氏のポーラ不動産株約69万株(HD株に転換され、提訴時の時価で約2200億円)と、ポーラ美術館所蔵の美術品839点(評価額計約28億円)は本来遺産相続の対象だった」と主張している。

 そして、ダイヤモンド編集部が独自に入手した音声データ3本は、両裁判の最大の争点となっている「鈴木社長らによる2000~01年の書類捏造があったのか否か」に、深く関わるものだ。

 仮に千壽氏の訴えが全て認められれば遺産相続をやり直し、千壽氏が法定相続分(4分の3)を手にする公算が大きい。株主構成が大きく変わるとともに鈴木社長のガバナンス能力の欠如が問われ、経営体制は刷新される可能性が高い。

 (これまでの経緯、詳細は『週刊ダイヤモンド』18年10月13日号第2特集「告発で始まったポーラ遺産騒動の深層」を参照)

 音声データ3本について解説しよう。

 17年12月18日に鈴木社長と元ナンバー2が告発後初めて話し合った際の音声データ(2時間7分)の存在はこれまでHD幹部らの間で知られており、本編集部も把握していた。

 その音声データに加え、本編集部は17年12月6日と11日に、告発を仲介したHDリスク管理業務委託先(当時。17年末にHD側から契約解除)の男性が鈴木社長と話し合った際の音声データ2本(6日は1時間18分、11日は28分)を独自に入手した。

 千壽氏はこれらの音声データについて、「鈴木社長は内部告発の真実性を認めていた」「捏造が真実ではない場合、鈴木社長の行動に矛盾がある」などと評価し、東京地裁に証拠として提出している。会談の詳報は後に譲るが、自身の捏造疑惑を告発された鈴木社長が疑惑を明確に否定する発言は見当たらず、むしろ、「捏造があったことを前提とし、社長退任の条件を話し合っている」と聞こえそうなやりとりだ。

 一方、鈴木社長はこれまでの裁判やHD取締役会などで、捏造を全面的に否定している。

 具体的な主張としては、(1)うかつに反論すると相手が暴走して事実無根の内部告発書面をマスコミなどに吹聴し、過去の泥沼の相続紛争が蒸し返される可能性が否定できなかった、(2)事実無根であってもグループのレピュテーション(評価)が毀損されることは間違いないと考え、そのような事態を避けるために「ひとまず話を合わせて聞き置く」という態度を取った、(3)積極的な発言や反論を控え、何を目的としているのかを聞き出すことに主眼を置いた、(4)何を言っても無駄であると考え、放言を聞き置いた、(5)確定的に社長を辞任する意思を示したことは一度もない、(6)(元ナンバー2らの行為は)恐喝または強要罪に当たる――といった具合だ。

 以下は、問題の音声データの中でも特に争点になりそうな会話部分を、時系列に沿って抜粋したものだ。本編集部作成の動画では、音声データの一部を公開しており、鈴木社長らの生の声を聞くことができる。

 なお18年12月6日の話し合いは東京・銀座のHD本社で、同月11日と18日の話し合いは東京・五反田のHDの登記上の本社で行われた。