後藤謙次
東京・港区のグランドプリンスホテル新高輪で開かれた自民党大会は異例ずくめだった。3月17日午前10時半、暗転した会場中央の大型ビジョンに白抜きの白線で描かれた石川県能登半島の地図が浮かび上がった。そして能登半島地震の犠牲者に対する黙とうから大会が始まった。しかし、大会を貫いたテーマは地震ではない。昨年末以来の派閥の政治資金パーティーを巡る裏金問題だった。

政治資金パーティーを巡る裏金問題で国民から厳しい批判を浴びる自民党に追い打ちを掛けるように、次々と難題が押し寄せる。それも政治の本筋とは違う政治家個人のあきれた行状だけに始末が悪い。首相の岸田文雄が繰り返す「信なくば立たず」の発言が空しく聞こえる。

首相の岸田文雄は最大のハードルとみられた「3月危機」を何とかクリアしたのではないか。2024年度予算の年度内成立が確定したからだ。岸田にとって最悪のシナリオは野党側に予算案を“人質”に取られ、予算成立と引き換えに“首”を差し出すことだった。

拉致問題は本当に動くのか。2002年9月に首相、小泉純一郎(当時)の訪朝で5人が帰国して以来、静止状態にある拉致問題を巡るニュースがしばしば報じられる。2月25日には拉致被害者家族会と支援組織の「救う会」の合同会議が新たな方針を打ち出した。

底を打ったかに見えた首相、岸田文雄の内閣支持率が再び降下を始めた。「危機的水域」にある内閣支持率でも持ちこたえているが、ここにきて自民党にとって「不都合な真実」が視界に入ってきた。

派閥の政治資金パーティーを巡る裏金問題と重なるように、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の友好団体と文部科学相の盛山正仁との関係が表面化した。二つの問題に関係する議員は多く、首相の岸田文雄はますます厳しい状況に追い込まれている。

「低姿勢国対」と言っていいだろう。派閥の裏金問題で“火だるま”状態の自民党が貫く国会対策のことだ。この中心にいるのが自民党国会対策委員長の浜田靖一。かつて「国会の暴れん坊」との異名を持ち「ハマコー」の愛称で親しまれた浜田幸一の長男だ。浜田は国会対策で、野党側に譲れるものは全て譲って実を取るという極めてシンプルな捨て身の手法を貫く。

首相の岸田文雄による岸田派(宏池会)解散表明に始まった自民党の「派閥解散ドミノ」にとどめを刺したのは、自民党選挙対策委員長の小渕優子(50)だった。小渕は1月25日午後、自民党本部で幹事長の茂木敏充に茂木派(平成研究会)からの退会を通告した。追随者が出るのは確実で、優子の退会で茂木派は崩壊状態になった。

岸田の宏池会解散の決断は、自民党の派閥秩序を大きく揺さぶった。麻生や幹事長の茂木敏充の了解を得ることなく実行した「総理のクーデター」といってもよかった。岸田の解散表明のインパクトは絶大だった。

派閥主催の政治資金パーティーを巡る裏金問題で大きく揺れる自民党に対する国民の目は極めて厳しく、共同通信が実施した直近の世論調査でも、約87%が政治資金規正法の改正による厳格化や厳罰化を求めている。ところが首相の岸田文雄の肝いりで発足した「政治刷新本部」は迷走したまま。自民党の若手議員からも疑問の声が上がった。

「能登半島地震、JAL機炎上、安倍派衆院議員逮捕」──。2024年は松が取れないうちに1年分の重大ニュースの続発で明けた。首相の岸田文雄は地震発生から約1時間後に首相官邸に入り、その日のうちに非常災害対策本部を設置して自ら本部長に就任した。内閣支持率が低迷したまま越年した岸田にとって、令和6年能登半島地震への対応は政権の命運を左右する。

2023年12月19日午前10時過ぎ、東京・平河町の自民党安倍派と二階派の事務所が同時に東京地検特捜部の家宅捜索を受けた。容疑は自民党派閥が主催した政治資金パーティーを巡る政治資金規正法違反。安倍派の疑惑が報じられた当初、首相の岸田文雄は「報道だけで人事に手を付けることはしない」と周辺に語っていたが、その後一気に人事を断行した。

#30
自民党派閥の政治資金パーティー券を巡る「裏金」疑惑で危機に瀕する岸田政権。特集『総予測2024』の本稿では、自民党派閥の行方や「ポスト岸田」の顔触れ、さらに野党の動向なども踏まえて、「ダイヤモンド・オンライン」の人気連載「永田町ライヴ!」の特別編として、政治コラムニストの後藤謙次が混迷必至の2024年政局を読み解く。

自民党のガバナンスは大丈夫なのか――。自民党の派閥のパーティーを巡る問題は拡大する一方だ。ところが、12月4日に開かれた役員会はわずか10分間。岸田から新たな指示はなく、記者会見した茂木からは事態解明に向けた決意は伝わってこなかった。

政治資金パーティーの政治資金収支報告書の過少記載が明らかになったのは、昨年分まで含めると自民党の6派閥全部と谷垣グループまで全ての派閥とグループ。いわば自民党全体のスキャンダルといっていい。立憲民主党の元首相、野田佳彦は11月22日の衆院予算委員会で首相の岸田文雄を厳しく追及した。

創価学会名誉会長の池田大作が11月15日、老衰のため死去した。首相の岸田文雄が日程をやりくりして池田の弔問に足を運んだことでも、公明党における池田の存在感がいかに大きかったかを物語った。「池田の死」は日本の政治全体の地殻変動を呼び込む可能性がある。

11月に入って政治家の訃報が相次いだ。往年の議員が次々と鬼籍に入る中で、首相の岸田文雄を取り巻く長老政治家たちは衰えるどころかむしろ活発な動きを見せる。

岸田内閣の支持率は今年5月の先進7カ国首脳会議で持ち直して以降は下り坂のまま、発足以来最低の28.3%になった。さらに見逃せないのが自民党の支持率も下降線に入りつつあることだ。こうなると、「次のリーダーは誰か」に光を当て始める。共同通信も「次の総裁にふさわしいのは誰か」を聞いている。

参議院自民党幹事長、世耕弘成の代表質問の波紋がなお収まらない。その光景は長い国会の歴史の中でもほとんど例がないかもしれない。政権与党の大幹部が現職首相の批判を展開したからだ。

ネット上では岸田をやゆする「増税メガネ」という言葉が飛び交う。その払拭もあって岸田が所得税減税にこだわったのかもしれないが、所信表明演説では所得税減税について具体的な言及はなし。しかし、実態は先へ先へと進んでいる。このチグハグ感が今後も尾を引く可能性は否定できない。
