首相の岸田文雄は最大のハードルとみられた「3月危機」を何とかクリアしたのではないか。2024年度予算の年度内成立が確定したからだ。岸田にとって最悪のシナリオは野党側に予算案を“人質”に取られ、予算成立と引き換えに“首”を差し出すことだった。自身も周辺にこう漏らしていた。
「予算の年度内成立ができなければ政権を終わらせようという動きが出てくる」
その危機感が岸田を意表を突く決断に駆り立てたとみていい。派閥の裏金問題を巡る政治倫理審査会への自らの出席と、「予算案の土曜日(3月2日)採決」だ。とりわけ予算案の衆院本会議の採決を巡っては、幹事長の茂木敏充との間で激しく火花を散らした。もともと岸田と茂木は反りが合わずギクシャクした関係が続いていたが、岸田の派閥解散宣言以降、茂木が党内調整や国会対策で動いた気配はなかった。両者の関係は「隙間風」を通り越し、「確執」のレベルに達するほど冷え切っていた。
事実上の「幹事長不在状態」(党幹部)の中で裏金問題を抱える安倍派・二階派議員や、水面下での野党との調整を担ったのは総務会長の森山裕だった。ところが、3月1日から2日の衆院通過を巡る与野党攻防の最中に茂木がいきなり動いた。自民党国対幹部によると、茂木が立憲民主党幹事長の岡田克也と接触して、衆院本会議での予算案採決を「週明けの4日」に先送りすることで合意したというのだ。茂木はそのことを自民党国対委員長の浜田靖一に伝えるが、浜田は同意をしなかった。
「それは総裁(岸田)マターだ。2人で決めてほしい」
岸田と茂木の協議はあっけなく終わった。岸田が有無を言わせず「土曜採決」を茂木に指示した。与党幹部は「岸田さんが珍しく“激おこ”した」と語った。
確かに自民党内にも週内決着にこだわらない意見はあった。
「野党もいつまでも抵抗できない。参院への送付が多少遅くなっても年度内の予算成立は問題ない」(非主流派幹部)。しかし、岸田は一顧だにしなかった。参院は衆院と違い、与野党の差は少なく自民党の思い通りに審議が進む環境にはない。さらに自民党内での衆参の幹部同士の軋轢が深刻化しており、何が起きるか分からないからだ。