自家発電が「トク」ならどうする?
料金単価の上昇は、社会全体の発電能力の増強を後押しする
④供給も増える
電力料金単価が上昇すると東京電力から電気を買うよりも、自ら電気を発電した方が得になるケースがでてきます。太陽光やガスを利用した発電機器の利用は増えていますが、料金単価が上昇すれば、その使用メリットも高まり普及スピードが速くなるでしょう。
特に太陽光発電は、夏場クーラーが最も使用される昼間に大きな発電を行いますので夏季の供給不足を補うには効果的です。もちろん、自家発電設備の設置には時間がかかるのでこれだけですべてを解決することは難しいでしょう。しかし、単価上昇は社会全体の発電能力増強を後押しする働きがあることも忘れていけません。
以上のことを考えると、3.5倍の単価上昇は高すぎるというのが私の認識です。上手に単価上昇をアナウンスすれば、単価の上昇幅を2倍以下に抑えることができると私は考えています。
人は急には動けない
「早急なアナウンス」が効果を高める
「見える化」と同じぐらい重要なことは、できるだけ早い段階で単価上昇の方針を決定し、広くアナウンスすることです。単価上昇に対応して電気の使用時間帯を変えたり、一時的に東京を離れて旅行に出かけたり、自家発電設備を導入したりするのには時間がかかります。人の行動や計画は短期的には変更できません。より積極的な調整を引き出すためには、できうる限り早い段階でのアナウンスが必要なのです。
単価上昇はある程度の効果をもたらすと考えられますが、現時点でその効果を正確に予想することは困難です。少し早い6月ぐらいから、季節別時間帯別料金を導入して、価格上昇の効果を見ながら7月、8月の料金を決定していくという方法が現実的かもしれません。需要動向をみて、事後的に価格調整を認めることも検討してよいでしょう。
柔軟な価格変更が難しい以上、価格変更だけで完全に大規模停電を防ぐことはできないかもしれません。需要の抑制効果が十分でない場合には大口の需要者に節減をお願いする必要が出てくるでしょう。しかし、価格引き上げである程度の需要抑制を行っておけば、大口の需要者へのシワ寄せも小さく抑えることができます。
単価引き上げとキャッシュバックは一つの案に過ぎません。私の提案と近い案は民主党内でも検討されたと報道されていますが、残念ながら現状では政府の節電対策案に盛り込まれていません。しかし、大企業はもちろん、一般家庭と中小企業の自発的な協力を引き出し国家の危機を乗り切る。それを実現する方法を模索していくべきです。
1971年北海道生まれ。
1994年横浜国立大学経済学部卒業。1999年東京大学大学院経済学研究科博士課程満期退学。1999年上智大学経済学部専任教員。2000年経済学博士(東京大学)。
現在、上智大学経済学部教授、行動経済学会理事。
著書に、『ゲーム理論の思考法』『図解 よくわかる行動経済学―「不合理行動」とのつきあい方』『経済学で使う微分入門』などがある。