和食で3年間、フレンチで5年間の修行、
8年をかけてようやく唯一無二の蕎麦屋が誕生した

「皿洗いでも何でもやります、とお願いした。真面目にやると、教えてくれるものなんですね」。なんとしてもどこにも無い蕎麦屋を興したかった、と坂さんは述懐する。

 和食で3年、フレンチで5年――。8年をかけて、ようやく「和×フレンチ×蕎麦×ワイン」の蕎麦屋が誕生した。

和の皿に美しく飾られたお造り。魚は旬物を丁寧に仕込む。この日はホウボウとコチで差のある食感を楽しむ。上飾りにはす芋。

 蕎麦は「せきざわ」の挽き立てのものを送ってもらう。これが何よりの強力な援護だという。それを真空パックで小分けにし、冷蔵保管して、その都度使う。

 蕎麦好きの客の中には、どこの蕎麦を使っているのかと聞く人が少なくない。「せきざわ」の粉と言えば、蕎麦好きなら、その名前と価値を知らないものはいない。

「坂」のメインは肉か魚を選べる。フレンチに倣って、メインなどは料理がチョイスできるプリフィクススタイルにしてある。

メインは肉か魚を選ぶ。チョイスのもち豚のロティ。繊維質を感じず、噛むと肉汁が舌に広がる。脂身までが上品で特上な仕上がりだ。

 この日のハイライトはもち豚のローストだった。肉は牛肉、鶏、豚では豚が一番難易度が高い※3という。

 豚の焼き加減はピンポイントだ。そのピンポイントで焼き上げる技術があれば、客の舌を蕩かすものになる。

 厚みのある肉にナイフを入れ、その上部の脂身を食べた客たちから、その甘みが詰まった美味さに思わず感嘆の声が上がった。

※3 豚肉の焼き加減の難易度:牛肉はレア、ミディアム、ウェルダンと焼きの段階に幅がある。鶏も肉に水分があるから焼き過ぎない限り肉はまろやかになる。だが、豚肉には幅が無いため非常に難しいといわれる。焼きすぎると繊維質で固くなり、中途半端だと肉の旨みが出てこない。